思わぬ同居人 4
風呂から上がって面倒なことが一つ増えた。
あのバカなオ・ハニに、風呂が空いたことを教えなければいけない。
どうしてあんなヤツのために風呂の湯を抜いて、綺麗に洗ってやるだけでなく湯張りまでしないといけないんだ。
本当に傍迷惑なヤツだ。
部屋のドアをノックする手が何を躊躇しているのか、一瞬止まった時に聞こえて来た会話が聞こえてムカついた。
その内容は、オレに対して何か文句を言っているような気がした。
そっとドアを開けて、中を覗くとアイツが独り言を言いながら着替えていた。
他人が入ったことのない家だから、オレは非常識だとは思ったが、アイツにオレの常識は通じないと思ってノックもしなかった。
着替えているアイツがいるのに、オレはそのままその後ろ姿を見て動けなかった。
リビングでおじさんと親父たちが笑っている声が聞こえなければいつまでも見ていたが、我に返って一度そのドアをソッと閉め、気持ちを切り替えてまたドアノブに手を掛けてノックをした。
「風呂空いたぞ。サッサと入れよ。」
白くて意外と華奢な背中が脳裏から離れない。
無表情な顔で部屋の入り口で立っているオレの顔を見て、ビックリとしている。
「ありがとう。」
そのたった一言が、何故か妙に心が温かい感じになって来る。
過ぎるアイツに付いて、一言言いたくてまたバスルームに向かった。
「換気扇を点けて入れ。換気をしないとカビが発生して身体に悪い。居候なんだから、常識があるのなら風呂は湯を抜いて洗っておけ。」
話すのも面倒で隙を与えることなく言ったから、アイツはオレが怒っていると思ったのか身を固くしていた。
ハニをからかって怒っている顔を見て可笑しくて、久しぶりに楽しいという気持ちを感じながら部屋に帰ると、ウンジョはすでに眠っていたが、決まった時間にベッドに入ればすぐに眠れるはずのオレが、いつまで経っても眠ることが出来なかった。
すぐ向かい側のバスルームで湯を掛けている音やシャワーの音が聞こえ、その合間合間に少し音を外したよく分からない歌が聞こえてくる所為か、それとも年頃の少年が感じる感覚なのか落ち着くことが出来ない。 この家に女はお袋一人。
今まで意識していなかったが、初めて感じる異性に対する感情が、まさかオレにもあるとは思えなかった。
「水でも飲んでくるか。」
そう思って部屋を出ると、バスルームから出て来たアイツと出くわした。
ピンク色に上気したアイツの顔と、濡れた長い髪に洋服とは違ったシルエットにドキリとした。
「音痴!」
冷たく言い放った言葉に驚いた顔をしていたが、この頃からアイツをからかう面白さを実感した。
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