あなたに逢いたくて 74

「スンハの父親になりたい、そしてハニと結婚がしたい。」

「スン・・・ペク先生・・・・何を・・・何をおっしゃるのですか?私は子持ちの未亡人で・・・・・・・」

「未亡人じゃないだろう?ハニは結婚をしていないのだから、未亡人ではないはずだ。それに、スンハはオレの子供だ。子供は実の親と一緒に生活をするものだ。」

スンジョに腕を掴まれて身体を強張らせるハニは、首を横に振り涙を流しながら自分の口から絶対にスンハの父親の事を言わない様にしたくて、スンジョから離れようと後ずさりした。

「なぜ?なぜ?ハニはオレから離れようとするんだ?ハニがオレの前から去ったこの五年の間、ずっと後悔し続けていたんだ。本当にオレのそばに居て欲しいのはハニしかいないんだ。父親の事を聞くのを母親が悲しむからと言っているスンハの気持ちを考えたことがあるのか?老人しかいない島で、同じ年頃の友達もいなくて、一人でブランコや滑り台で遊び、その場所にいない友達の名前を呼んで・・・・・・一人遊びをするのがどんな気持ちか、ハニは知らないだろう。オレは知っている、スンハと同じ年ごろに友達のいない時期があったのだから。」

ダメだ・・・・・ハニがオレを拒もう拒もうとすると、自分自身に焦りが出てくる。

自分が間違った選択をしたばかりにハニを傷つけた焦りが、つい責めるような口調になってしまう。

「ハニ・・・ペク先生。子供の前ではそういう話は避けてもらえないか?スンハが不安がるから。」

廊下を歩いていたギミが、二人が言い争っているような様子に気が付いて、それを止める為に間に診察室のドアを開けた。

「ごめんなさい。」

「すみません・・・・・・」

「さあ、早めに昼食を食べて巡回に行かないと、今日は夕方には雨が降りそうだから早めに出た方が良い。」

11月に入り、島に吹く海風も肌に冷たく感じた。

巡回が終わり、急いで診療所に向かった。

スンジョの後ろをいつものように小走りに付いて来るハニの足音が、風に消されて今日は聞こえない。

ハニがいないのかと思い、振り向いて止まった。

ドスン____

「きゃっ!」

自分にぶつかって来たハニの身体が、スンジョの胸の中に有った。

結い上げた柔らかな髪が、ハラリと落ちると甘いハニの香りがした。

スンジョは、震える腕でそっと壊れ物を扱う様にハニを包み込む。

ハニは一瞬ビクッとして離れようとした。

それよりも早くスンジョは腕に力を入れて抱きしめた。

「ゴメン・・・・・スンハの前で、責めるような口調で言ってゴメン・・・・」

ハニは何も言わない。

「ハニがいないと、自分の気持ちをどう表現していいのか判らないんだ。ハニがそばに居れば笑ったり怒ったりすることが自然に出来る。ハニがオレの前から去っていたこの五年間、眠れていたのか、息をしていたのかどうかも判らない・・・・・・医者になってホワイトガウンを羽織った時、オレの夢を見つけてくれたハニがそこにいないのが苦しくて・・・・・ずっと探したんだ。パラン大で別れた後も、ハニを忘れることが出来なかった。会ったから忘れることがとても難しかった。ハニは結婚したと本当に信じた反面、信じたくなかった。他の男に笑いかけて、他の男とキスをして、抱かれてその子供を産む・・・・・オレがそんな下世話なことを考えるなんて思わなかった。学会でキム・ジョンすと再会をして、ハニとは結婚していないと聞いた途端、ハニとスンハにどうしても会いたくて仕方がなかった。ハニとスンハとこの人生を過ごすことは出来ないのだろうか?」

スンジョのわずかに見えている手首にハニの涙が落ちた。

優しいスンジョの掌が、ハニの頬を挟み上向かせると、止まることを忘れたように涙が流れ続けていた。

何か言いたそうにしているハニだが、言葉が出てこないのか口をわずかに開けて嗚咽を漏らしている。

黒い雲が広がり、空も泣いているように急に大粒の雨が降り出した。

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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