思わぬ同居人 6
「ただいま。」
「お帰り・・・・・あらっ!ハニちゃんは」
「知らない・・・・・・」
「知らないって・・・・どうして一緒に帰って来なかったのよ。最近この辺りは痴漢が出るみたいなの。若い娘が夕方に独りで歩くのは危険だし心配だわ。」
素知らぬ顔をしたが、今朝見かけた不審な男が頭の中を過(よぎ)った。
夕食の時間が近づいているのにアイツは帰って来ないが、おじさんの店でも行っているのだろう。 「もしもし・・・・・あぁ・・・ギドンさん・・・・・」
やっぱりな・・・おじさんの店で夕食を食べて来るのなら、早く言わないとお袋が食事を余分に作ることになるだろう。
「ママ?バカハニは帰って来ないって?」
「違うの、今日は明日の仕込みで遅くなりそうだから、お店に泊り込むらしいの・・・・ハニちゃんはそれを知っているから、来ないだろうって・・・それにしてもハニちゃん・・・・遅いわね。」
おじさんの店にも行っていないのなら、さすがに放っておけない。
バカなヤツだけど、あの不審な男も気になるし様子でも見て来るか。
外は蒸し暑く、気分がすっきりしない湿度の高い夏の天気。
コンビニで、欲しくもないのにアイスクリームやジュースを何で買ったのだろう。
スンジョはレジ袋の中を見て、自分の行動に笑えた。
自分が好きでもない甘いアイスクリームやジュース。 まるで女の子が好きそうな物をいくつも入っている。
今朝登校途中で不審な男を見かけた場所で、スンジョはハニを待つ事にした。
何をやっているんだ?どこかで寄り道をして来るのなら連絡くらい入れろよな。
持っていたレジ袋の中のアイスクリームが、時間と共に溶け始めていた。
何もしていなくても汗が出てもおかしくないのに、その汗さえも出ることを感じられなかった。
<最近この辺りは痴漢が出るみたいなの>
お袋の言葉が頭から離れない。
コツコツと歩いている足音が聞こえて来た。
足音の大きさから、その足音は女だと直感した。
迎えに来たと思われるのも癪に障るから、脇道に入りスンジョはそっと様子を伺うことにした。
ハニだ・・・・・ん?
この暑い時期に季節外れのコートを着ている男が、ハニから少し離れた後ろを付いて来ていた。
コートを着ているのに足元を見ると、ズボンを穿いていない。
今朝見かけた不審な男か?
ハニの後ろにいたその妙な男は素早く車と塀の間を通り過ぎて、ハニの前に廻りこんだ。
なにかハニに言っているかと思うと、ハニはクルッと向きを変えて来た道を走ってまた戻って行く。
「ヤバイ、あの男はお袋が言っていた痴漢だ・・・・逃げるなら叫んで逃げればいいのに・・・・」
「待って!判ったから・・・・・いいわ、見てあげる。イチ・ニのサンの掛け声よ。だから、その靴を返してね。行くわよ・・・・・」
ハニの話しているのが聞こえた時、オレは無意識に走り出していた。
ハニに見せたくなかった、痴漢のあの醜い姿を。
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