あなたに逢いたくて 77
一度ハニの唇に触れてしまうと、懐かしいその柔らかな感触に、抑えていた想いが溢れだしスンジョは止まらなくなっていた。
ハニも最初はスンジョへの想いを断ち切ったふりをしていたから身を固くしていたが、スンジョの優しくて甘い口づけに、辛くて哀しかった五年間を忘れて行った。
そっとハニは固く握っていた拳を緩めて、その手を遠慮しがちにスンジョの背中に廻すと、二人の抑えていた想いは止まらなくなった。
「私・・・・本当は、スンジョ君に逢いたくて・・・・離れたくなくて、最後に会ったパランで、そのままスンジョ君と、どこかに逃げて行きたかった・・・・でも・・でもその時、スンハが私を呼んだ気がしたの・・・私は、お母さんなのに自分の子供の事を忘れて・・・」
ポロポロと、大粒の涙を流すハニは、高校で出会った頃のままの純粋で人を裏切ったことも裏切られたことも無かった時のハニだった。
強く抱いて嫌われたりしない様に軽く抱いていた腕に力を入れても、ハニはもうスンジョの腕の中からは逃げない。
スンジョは、柔らかなハニの頬に伝う涙をそっと吸い上げて、その頭を自分の胸に寄せた。
「なぜ、妊娠が判った時にオレに言わなかったんだ?オレが見合いをして、ヘラと婚約していたからか?それとも、オレと別れたのだから子供を諦めろと言うと思ったのか?」
「ううん・・違う・・・・だって、スンジョ君はヘラと婚約したんだもの・・・・婚約者以外の女性が、妊娠したら・・・・・・・」
ハニのそんな考えがあまりにも昔と同じで変わらないままのハニで、五年の空白期間を忘れるくらい幸せを感じた。
一時は結婚を約束した相手で、それを考えての付き合いだから、オレが子供を堕ろせと言うはずがないのに。
きっとハニの事だ、オレの為に黙って妊娠をした事も告げずに身を引こうと思ったのだろう。
「バカだな・・・・・本当にお前はバカだな・・・・・・・」
スンジョの顔を上目づかいに見上げるように、唇をとがらせてちょっと拗ねてスンジョを睨んだ。
「私は・・バカだもの・・・・・」
「ハニじゃない・・・オレがバカなんだ。好きな女の身体を考えずに避妊をしなかったのだから。そうだとしても、当時は医学を志す学生だったとはいえ、付き合っていた彼女が妊娠したことにも気づかないで、そんなオレは男としても医師としても失格だな。」
何だか、どう謝ろうかと考えていたのに、思った以上に素直に話せて安心したのか、オレの胸に頭を預けているハニが愛しくて愛しくて、自分の本当の心が戻って来たようでずっしりと重かった心が軽くなって来た。
「ちゃんと今度は本当の結婚しようか?親父とお袋とウンジョとおじさんだけの参列者でもいいから、スンハが誰の目も気にしないで、オレの事を気兼ねをしないでアッパと言えるように。」
「私がスンジョ君と結婚したら、迷惑になるよ。スンジョ君は、立派なお医者様になる人だから・・・・・・ううん、ならないといけないの。」
「ハニが、オレの隣にいてこそ一人前の人間になれるんだ。立派な医者にならなくても、ハニが認めてくれるだけでいい。スンハとハニと三人で・・・・いや、結婚したらスンハの兄弟だって出来る。オレ達の家族が幸せに暮らせれば、それだけでいいのじゃないかな。オレがオレらしくいられるように・・・そして、ハニがハニらしくいられるように・・・・・・ん?ダメか?」
考え込んでいるハニを覗き込むようにハニの目を見つめる。
「でも・・・・・・・・・・」
「ハニはオレ以外の男は好きになれないだろ?それとも、ハニを好きでいてくれた、キム・ジョンスと結婚するのか?」
恥かしそうに首を横に振った。
「キム先生を利用したことは本当に申し訳ないと思うの・・・・・スンジョ君の言うとおりよ。私は、スンジョ君以外の男の人は好きになれないわ。」
「ハニの左の薬指の指輪・・・自分で買ったのだろ?オレがはめるのは、スンハのネックレスにしてあるあの指輪だろ?服務期間が終わったら、二人で指輪を選び直して、皆の前で指輪をはめて披露しよう。」
「おばあちゃん・・・・・・・・おばあちゃんが島に一人になっちゃう。」
「それは、明日の朝診療所に帰ったら話そう・・・・うっ・・・」
「スンジョ君?」
ハニがゴソゴソと動くと、スンジョは苦笑いをして天井を見上げた。
「ハニ・・・・・あんまり動くなよ。」
キョトンとして見上げると、スンジョは照れた顔をしていた。
「ハニをこうして抱いたのは随分と久しぶりだから・・・・・理性が崩れそうで、ハニともっと先に行きたくなる・・・・・・」
「い・・・いいよ・・・・・スンジョ君・・・・・・」
スンジョはクスッと笑ってハニのオデコに昔よくしたようにデコピンをした。
「一晩じゃ無理だ。オレの想いは五年間、この時を待っていたのだから。朝までこのまま抱いているだけでいいから、眠れるようなら眠っておいた方がいいよ。」
スンジョとハニは離れていた五年間の寂しい想いを忘れるように、お互いの身体をもう二度と離れないようにしっかりと抱き合って目を閉じた。
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