思わぬ同居人 23
「どこに行くの?痛いよ、手を放して・・・・・・」
ハニの手をギュッと掴んで、スンジョは波打ち際まで連れて来た。
「私・・・泳げないのに・・・・・・それに水着を着ていない。」
「貝殻で手を切ったのなら、海水で洗った方がいい。」
「海水って・・・沁みるよ・・・あっ!」
ハニの言葉を無視して、スンジョは海水に貝殻で切った方のハニの手を入れた。
「あれ?沁みらない・・・・・・・・」
海の波の打ち寄せる音が、二人だけの世界に静かに流れていた。
ハニの掴んだ手首は細かった。
ハニは不思議そうに血が止まった傷口を見た。
「凄いね、スンジョ君って何でも知っているんだね。」
「別にすごい事でもない。海で怪我をしたら海にあるものがいいんだ。」
「へぇー」
まるで宝物でも見るように血の止まった手を見て、オレに無防備な笑顔を向けた。
家で何度も見慣れている顔なのに、今日のハニはオレの心の奥に細い針を刺したようにチクッとした。
「小学生のウンジョでも浮き輪なしで泳げるのに、高校生のお前がどうして泳げないんだ?奥に行かなければ足が着く深さなのに。人間は水に浮くものだし、海水は塩分があるからプールの水よりも軽く浮くだろう。」
「私ね、海に来たの今日が初めて・・・あぁ、正確には海には来ても水着を着て入ったことがないの。」
おかしな話だと思った。 海に来たのなら、普通は海水に入って泳ぐだろう?
「私・・・・小さいころにママが亡くなったでしょ?パパはお店があって、他の友達みたいに学校が休みの時に海に連れて来てもらったことがないの。仕事で毎日夜遅くまで働いているから、定休日はゆっくり休ませてあげたいし、休みの時でも麺を打ったり、仕込みや買い出しがあるから海に連れて行ってとは言えなくて。」
そうだった。
ハニはずっとおじさんと二人で過ごして来たんだった。
ただのバカな女の子だと思っていたが、こうして誰もいない夜の海で聞くハニの話し方を黙って聞いていると、人の頭が良いとか悪いとかは大したことではないのじゃないかと思った。
何かオレの持っていないとても大切なものを、このオ・ハニが持っていて普通に表現できる力があるような気がした。
不思議にこの時のハニはオレの心の奥の冷たい空気を温めてくれていた。
ハニは、オレが黙っていると急に吹き出した。
「何だよ。」
「さっきからスンジョ君、私の顔をじっと見てるけど・・・いつも意地悪していて悪かったと思ってるんでしょ?」
「思うわけないだろう。ほら、戻るぞ。夏だと言っても夜の海風を馬鹿にしたら風邪を引くぞ。」
スンジョが立ち上がって先に歩いて行くと、ハニはその後ろを走って付いて来た。
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