思わぬ同居人 25
「おばさん、行ってきます。」
「楽しい夏休みなのに大変ねぇ受験生は・・・・・・スンジョ、スンジョは行かないの?」
「お・・・・おばさん・・・・・」
グミの話に困っているハニを見てスンジョはニヤリと笑った。
「行くよ。」
マグカップを置いて、ラケットバックを手に取った。
「ハニちゃんは制服なのに、スンジョは・・・・私服でラケットバック?補習授業は・・・・・・・」
「お・・・おばさん・・・・スンジョ君は・・・・・・」
慌てているハニを見るのが楽しくて・・・・・オレがこう言えばどういう反応をするのかがまるわかりだ。
「ソイツは勉強が好きになったらしくて、夏休みでも特別授業を受けたいらしい。オレは気晴らしに、後輩と練習してくる。」
オレが鼻で笑ったのが癪に障ったのか、ハニの頬がプゥーッと膨れて小さな子供みたいにアッカンベーをするけど、いい加減に年齢相応なことをしろよ。
と言っても、オレはハニのそんな顔が見たくてやっているのだから、どっちもどっちだな。
家の前の長い下り坂を追いかけてくる足音を聞き、またハニの真赤になって怒った顔が見たくなった。
_____ドンッ!
軽くアップをして、ハニが補習を受けている教室の方を見上げた。
この暑い夏の真っ昼間に、後輩とはいえ練習に来ることなどないことは判っている。
後輩と練習をしてくるなんて、ただの言い訳。
クラスの連中も志望大学に向けて、予備校に通って連日追い込みをしている。
何人かに誘われたけど、予備校に行ってどうするんだ?
一通りやればオレにとっては十分だ。 ハニや落ちこぼれ達が必死になって補習をしたり、予備校で模試を受けたりするのが受験生なんだろうけど、大学に行って何をしたらいいんだ?
勉強して名門大学に入って、一流企業に行って・・・・・・・・・ そんなことに何の意味があるのだろう。
生きて行く意味さえ分からないオレに、大学に行く意味も分からない。
勉強をするだけなら、高校だけで十分。
どうせ親父の会社の跡を継いで、適当な家柄の娘と見合いをして結婚し、親になって・・・・・・・
「あ~つまらん!」
集中して打ったボールがコートの中で、ポォーンと落ちてコロコロと転がった。
オレの心のように、その転がる姿が寂しそうでもあり虚しそうにも見えた。
バタバタと聞きなれた足音がしてそちらを見ると、ハニがブツブツの何か独り言を言って走っていた。
スンジョの中の子供っぽいいたずら心が、スンジョらしからぬことをした。
「いったぁーい」
ハニはお尻を押さえて、辺りを見回した。
「だ・・・誰よ・・・?テニスボール?・・・・あ~~~~~っ!」
あー面白い。
ハニをからかうと、どうしてなんだろうこんなに心が温かく感じる。
「お前、何をやってるんだよ。補習授業の時間じゃないのか?」
「えっと・・・・・ちょっと事情があって・・・・・・・」
「どうせ、居眠りをしていたか、オレの姿を見てボーっとしていたんだろ?」
図星なのかハニは目を大きく見開いて黙り込んだ。
「そっちこそ、後輩と練習じゃなかったの?」
「暑いからサボったんだろ?まぁ・・・残りの補習も頑張れよ。」
「どこに行くの?」
「帰るんだよ。本屋に寄って予約していた物を取りに行かないといけないからな。」
スンジョは、一人でボールを打っていた時とは違って、晴れやかな顔をして更衣室に向かった。
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