思わぬ同居人 26
予約した本を受け取るために、行きつけの書店に向かった。
その書店は、予備校が立ち並ぶビルに隣接しているからか、取り扱う書籍の種類はたぶんこの辺りでは一番だと思う。
他に興味が注がれる本はないかと思い、背表紙をなんとなく眺めていた。
スンジョのいる書棚の向こう側から聞こえて来た会話が耳に入った。
「さすがペク・スンジョだよな。この時期に予備校にも通わないで、テニスラケットを持っていたぞ。」
「いいんじゃないか?どうせ何の努力もしなくてもテハン大に首席で入るだろうし、そのまま大学を出たら親父さんの会社を継ぐんだろ。」
「いいよなぁ・・・・何の苦労もしなくても一生過ごせる奴は。」
「全くだ、オレ達みたいに親から期待を掛けられ、パランに入ったら1組に入れ・・・・大学はテハン以外はダメ。テハンがダメなら留学だ・・・・・なんてさ。」
「そうだよなぁ・・・・・・おっ!この本じゃないか?」
その会話の持ち主は、目的の本を見つけるとレジに向かった。
何が『何の苦労もしなくて一生過ごせる』だよ。
オレにしたらお前らの方がよっぽど羨ましいよ。
親が期待してそれに応えて受験勉強を必死にして、あこがれていた一流企業に就職。
生まれた時から、覚えたくもないのにちょっと目を通しただけで、嫌でも記憶に残るなんて・・良いことも悪いことも全て忘れないんだぞ。
親の会社を継ぐのだって、それが羨ましいのか?
目標もなければ夢もない。
そんな人生が羨ましいと言うのなら変わって欲しいよ。
生きている意味さえオレは判らない。
失敗もしたことも間違いだと思うこともない、いつも何でも努力もしないで出来ることがどれだけ嫌なのか。
「こちらの本で間違いはないですか?」
「はい・・・・あとこの3冊もお願いします。」
会計を終えて店の外に出ようとした時に、賑やかな一団がレジに向かって来た。
「あっ!スンジョ君。」
「何だよ、お前も本を買うのか?」
「うん、今日発売日なの。」
ハニがオレに見せたのは、アイドル雑誌だ。
オレにしたらコイツの方が羨ましいよ。
何の苦しみも悲しみもないように、バカみたいに笑っていて。
「スンジョ君、待っていて・・・一緒に帰ろうよ。」
ぬいぐるみだか、財布だかわからない代物から小銭を出して支払いをしているハニは、どうやらオレと帰りたいようだった。
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