思わぬ同居人 33
将来の夢なんて、叶う事が無くても持つことが夢なのか。
オレは生まれる前から親父の後を継ぐことが決まっていた。
ハンダイ・・・・・おじいさんの会社を親父が引き継いだ。
引き継いだ時はまだ今ほどの大きさの会社ではなかったが、親父が身体を休ませることなく仕事をして大きくしてきた。
海外の玩具メーカーの下請けだったおじいさんの会社を、親父が自社開発で新しい玩具を考え輸出して成功した。
時代は、玩具主流からゲームに変わり、そのゲームも時代のニーズに合わせて変わって来た。
今はネット配信のゲーム、いわゆるオンラインゲーム時代。
親父はこの国でいち早くそれに力を入れて成功させた。
それをすごく誇らしく思っている事はオレも知っているし、オレもそんな親父を尊敬している。
尊敬しているけど、親父が感じたあの時の喜びを、オレは感じることもなく一生を過ごすのか?
男なら大きな海原に身を投じて、一か八か(いちかばちか)の大仕事をしてみろ。
そう言ってほしかった。
普通に親の会社の跡を継いで、それを次の世代であるオレの子供に引き渡す。
そんな平坦なレールではなく、親父やハニのお父さんの様に、もっと自分が誇れる仕事に就いてみたい。
親父が大きくした会社をそのまま受け継ぐために大学に行かなければいけないのなら、自分が誇れる仕事をするわけでもないのならオレは行きたくない。
「どうしたの?」
「何が?」
「顔が、怖いよ。」
ハニが向かい側で、オレをじっと見ている事を忘れていた。
「考え事していただけだ。」
「ふぅ~ん。」
ハニは勉強が嫌いだ。
嫌いなのに大学に行きたいと言っていた。
「お前さ・・・どうして大学に行くんだ?勉強は嫌いだろ?」
ふふふ・・・・と、ハニが笑うと素直になれそうな気もする。
「勉強は好きじゃないよ。でもね、大学って勉強をする為ばかりに行くんじゃないの。将来何の仕事に就こうとか、自分は何をしたいのか・・・って、自分探しをするところだと思うの。」
「自分探し?」
「そう、自分探し。私も、将来何になりたいかなんて考えたことはないわ。まっ、いつかは好きな人と結婚して・・・・・なんて・・・・考えているけど。」
「ハニの結婚相手が、オレじゃない事を願うよ。コーヒー、ご馳走様。」
お前のその単純な子供じみた願いも、オレはそれさえも持っていない。
自分探し。
自分でも自分の事は判らない。
そのための大学か。
それはそれで、いいのかもしれない。
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