思わぬ同居人 35
「スチャン、大丈夫だよ。ちゃんと大学を受験するよ。今は、追い込みに入る時期だし精神的に不安定になっているだけだよ。」
「そうよ、パパ。スンジョは、今までも親を困らせた事の無い子供じゃない。勉強も他の人みたいに苦労した事が無いから、自分で何を目標にして受験勉強をしていいのか判らないだけよ。まだ願書の受け付けも始まったばかり、大丈夫よ・・・・」
スンジョが大学には行かないと発言をしてから、家の中はスンジョを気遣い、重く暗い空気が漂っていた。
ハニは自分では何もすることが出来ないことは判っているが、何かしてあげたくて仕方が無かった。
デパートに行き、受験の無事合格を祈りながら銀のフォークを探した。
「おまじないは、スンジョ君は信用しないかもしれないけど、やっぱりある方がいいに決まっているから。リボンはスンジョ君に合わせてブルー系にして・・・・・」
箱の中にリボンを付けた銀のスプーンと、メッセージカードを入れた。
メッセージカードを入れても、この箱に目を止めてくれるとも思っていない。
見てもらえなかったら、何か声かけてあげたくても言葉は伝わらないことは判っていた。
あの日からスンジョ君は、部屋から出て来なかった。
夜遅い時間に部屋の前を通ると、叔母さんが運んで来た夕食がそのまま置いてあったけど、朝起きると食器は洗って片付いていた。
家族揃っての夕食は、あの日から無くなって、叔母さんの楽しい話やウンジョ君の嫌味な言葉も聞く事が無くて、静かで重苦しい空気が流れる夕食の時間になっていた。
大学の願書は一応スンジョ君は提出をしていたみたいだから大丈夫だと思うけど、明日はセンター試験の日。
何も食べないで行くのは、いくらスンジョ君でも体力的に辛いはず。
「スンジョ君・・・・スンジョ君・・・・」
部屋の中にスンジョがいる事は判っているが、掛けた声に帰って来る言葉は待っていても無かった。
「おじさんもおばさんも心配しているよ。ウンジョ君も小学生なのに、スンジョ君の事を心配しているの。ちゃんと大学は受験するよね。あれから本当にみんな心配をしているよ。」
「・・・・・・」
ハニがドア越しに声を掛けても、スンジョからは何も声が返って来ない。
見えない向こう側にスンジョがいる事は判っているし、どうしているのかも判るが、いつものように何も気にしないような話し方で声を掛ける事は出来ない。
「スンジョ君は、迷信とかは信じていないけど・・・・・・これ・・・受け取ってね。それとね、ずっと食べていないでしょ?だからパパに不落粥を作ってもらったの・・・冷めないうちに食べて。」
「・・・・・・」
「ここに置いておくね・・・私、叔母さんの手伝いをするから・・・・明日のセンターはお互いに頑張ろうね。」
ハニは銀のフォークが入った箱を、スンジョの部屋のドアの前に静かに置くとその場から離れて行った。
ハニがドアの向こうでオレを心配している顔で立っているのが判る。
本当はハニの顔を見て、いつものように嫌味を言って胸のモヤモヤを晴らしたいが、悪いがそんな気持ちにはなれない。
コトンとハニが何かを置いた音が、静かな部屋の中に聞こえた。
グミの手伝いに降りて行く足音が聞こえなくなるのを待って、ベッドから立ち上がり静かにドアを開けた。
リボンの掛った小さな箱と手紙が、スンジョの足元に置かれているのに気が付くと、それを手にして手紙を開けた。
相変らず誤字はあるが、手紙に書いた事にモヤモヤとした気持ちが少し晴れた様に感じた。
『____大丈夫、スンジョ君を信じてるよ。みんなも心配しているから。』
何を信じているのか。
オレがテハン大を落ちると思っているのか?
ギドンが作った温かい粥を一口食べると、家族みんなの思いが伝わって来るような気がした。
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