思わぬ同居人 36 

結局あの日から真面に両親と話もしなかったし、家族の団欒の時間を過ごすことも無かった。 

ハニがお守りとしてくれた銀のスプーンと不落粥をオレの部屋の前に置いたのが、あの日以来初めてオレに対して掛けてくれたこの家の中に住むたった一人の人物の声だった。 


朝早くからお袋が起きて、朝食の準備をしていたのは知っていた。 

オレが部屋に上がって出かける準備をしている間も、まだ誰かがキッチンで何かを作ってくれている様子が2階のオレの部屋まで聞こえた。

 今か今かと、オレが下に降りるのを見上げている両親とウンジョとハニ。

 部屋のドアを開けて階段を降りかけた時に『はぁ~』っと、安心したような声が聞こえた。

 オレが試験に行く事が判って安心したのだろう。 


「行ってくれるのね?」 

「あぁ・・ごほっごほっ・・・・」 

「あら!嫌だわ・・・風邪を引いたの?」

 「ちょっと・・・・大丈夫だ・・・・」 

ハニが何か思いついたように、手をパンッ!と叩いた。 

「待ってて・・・・良く効く風邪薬を持っているの。」 

いつも学校に持って行くカバンの中から、多分ハニが常用しているのだろうと思う風邪薬を出した。 

ウンジョは急いでキッチンから水を持って来ると、スンジョは風邪薬に少し疑問を持った顔で飲んだ。

 「この風邪薬・・・眠くならないだろうな?」

 「眠く?・・・・服用後は運転に注意・・・・あ~~スンジョ君飲まないで!」 スンジョの口を開けてハニは手を入れるが、その手をスンジョは振り払った。 


「もう遅い!」


風邪薬は眠くなる成分の抗ヒスタミンが入っているのだから最初から判っていた。

 ここ数日は眠れなかったから、風邪を引いたのだから薬の副作用で眠くなることは判っていた。

 受験の部屋は暖房が効き、眠気を誘う可能性はかなり高い。

 案の定3科目目の時間に眠気が襲い、試験終了の時間わずか10分で感を働かせて適当に解答を埋めるだけ埋めた。

 試験当日に風邪を引いたのが始めてなら、試験の最中に居眠りをして急いで感で解答を埋めたのも初めてだった。 



同じ試験会場だったクラスの誰かが、また誰かにオレが試験の最中に居眠りをしていいたと話したから大袈裟なくらいに噂が広まった。

 『ハニから貰った風邪薬を飲んで・・・』と一言だけ話をしたのがいつの間にか噂は変わり『いつも冷たいから仕返しに睡眠薬を飲ませて、センター試験を失敗して困らせようとした』ととんでもない内容になっていた。

 思い込みが激しくてバカみたいに責任を感じるハニだから、思いつめなければいいとは思っていたが、学校から帰ると風邪気味だから夕食はいらないと言って寝ているとお袋が言った。 

当然のようにお袋はハニが風邪気味だと聞くと、オレが移したからだと言って嬉しそうにしていた。

 きっと余計な事を考えているのは判り切っていた。 


センター試験の結果が出るまで、受験の為の勉強をすることも無くぼんやりと届いた郵便物を見ながら寒い風に当たって、夢などない大学生活の事を考えていた。

 センターを失敗したのなら、本試験を頑張ればいいからとソン先生は言っていたが、別に志望校がテハン大と書いたからテハン大に行かないといけない訳ではない。

 一応、誘われている大学から特別枠で入学を許可すると言う連絡があったのだから。 


ガタンガタンと大きな音を立てて、ハニが大きなキャリーバッグを引いて外に出て来た。 

こんな遅い時間に旅行にでも行くのか? 

「どこに行くんだ?風邪気味だったのじゃないか?」 

オレがそこにいるとは気が付かなかったのか、ハニは飛び上がって驚いた。 


ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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