あなたに逢いたくて 80
スンハの悲鳴と、何かが地面に叩き付けられて飛ぶ光景を見ても、何が起こったのか一瞬判らなかった。
スンハがいつもの様に、ブランコで立ち漕ぎをして、その様子をスンジョ君が優しい顔で見ていた。
私は、そんな優しい顔をしているスンジョ君が任務を終わらせて帰ってしまった時の為に、一生忘れない様にしようと頭に刻んでおこうと見ていた。
スンジョ君に関わる事は、忘れっぽい私でも小さなホクロの形や場所も忘れない。
その時だった。
スンハの鳴き声がしたと同時に、スンジョ君が真っ青な顔をして窓から飛び出した。
冷静なスンジョ君のその行動に、非常事態が起こったと思って私も下ばきに変えないで広場に向かった。
スンジョ君がスンハを抱きかかえて呼びかけている所に走り寄ると、スンハがは頭から血を沢山流し目を閉じていた。
小さな顔が血だらけになり、ぐったりとして動いていなかった。
私は、その辺りからの記憶がなかった。
スンジョ君に頬を叩かれて、何か言われたけど何も覚えていない。
「スンハ?・・・・・スンハ!!」
「揺するな!頭を打ったかもしれない・・・・止血用のガーゼと包帯に診療所にある生理食塩水を全部と、救急ヘリを要請するんだ!!!・・・・ハニ・・ハニ?」
スンジョが、ハニの方を見ると青い顔をしてガタガタと震えていた。
ダメだ・・・ハニのやつ頭が真っ白になっている。
ギミさんは、さっきスエさんと近くの店に買い物に出て行ったか・・・・
オレはガタガタと震えているハニの頬を叩いた。
「しっかりしろ!!!お前は看護師でスンハの母親だろ!!!オレのズボンのポケットから、携帯を出して救急ヘリを呼べ!それから生理食塩水を診療所に有るだけ全部持って来て、ドロが付いている傷口を洗って、まずは止血だ。」
ハニはスンジョに言われた通りに、スンジョの携帯でヘリの要請をした。
「ハニ、多分傷口は頭だけだ。頭は割と傷の大きさよりも出血量も多いが大丈夫だ。ざっと見た感じ傷の大きさも大きくないし心配はないが、念のために聞いておく。スンハの血液型は?」
「B型・・・・」
「ハニは何型だ?オレはBだ。」
「私はAB型・・・・・・・・・。」
ハニが持って来た生理食塩水で傷口を洗っていると、スンハが目を開けた。
「スンハ!?」
「オ・・・・オン・・・・マ・・・・・ごめんなさい・・・・・オンマのブランコ・・・・壊しちゃった・・・・」
「オンマこそゴメンね・・・・ブランコが壊れそうなのに気が付いていなかったの・・・・スンハ・・・・」
「スンハ、判るかアッパだ。直ぐに良くなるからもう少し我慢をするんだよ。大きい病院に行って治してもらうから、それまで頑張るんだぞ。」
まだ小さなスンハは、スンジョとハニが揃って自分を心配してくれるのが嬉しいのか、にっこりと笑いスンジョの大きな手を、血と泥で汚れた小さな手で握った。
暫くすると、裏の勝手口に通じる扉が開いた音が聞こえた。
誰かに聞いたのか、ギミが息を切らして三人に走り寄った。
「ペク先生・・ハニ・・・いったいどうしたんだ?」
「ブランコの鎖が切れたんです。頭を少し切っただけで、傷は大したことがないと思いますが、全身を強く打撲し、頭も打った可能性があるので設備の整った病院で検査をして来ます。」
「ペク先生、ハニとスンハを頼みます。」
スンジョは到着した救急ヘリの操縦士と、スンハの状況を話し搬送する病院を確認していた。
「ここから一番近くて設備のある病院へ。」
「ペク先生・・・・実はここから一番近い病院は、高速道路の事故で多数の負傷者を搬送して手一杯なんです。」
スンジョは医師としてスンハの父親として、頭を整理しながら携帯を手にした。
ハニの前では平気な顔をしているが、ハニが大切に育てた自分の娘が頭から血を流して、小さな顔にこびり付いた血が、心を穏やかにすることが出来なかった。
「ナ医師ですか?ペク・スンジョです。先生の今日の予定は・・・・・・・・そうですか。実は娘が・・・・オレの娘が怪我をして・・・・・・詳しい事はそちらに行ってから・・・・・・怪我の状態は、頭を投打・・・・全身打撲・・・・骨は折れていないです。出血も中量・・・・・・・。お願いします先生・・・・今から直ぐにヘリで向かいます。」
電話を切ってスンジョはハニとスンハとヘリに乗り込んだ。
「ギミさん・・・オレはすぐに戻ります。ハニとスンハは多分暫く向こうにいることになります。オレが戻って来るまでの留守の間、代わりの意思がすぐに来れるように手配済みですから、急患が来た時に待ってもらう様にお願いします。」
ヘリのプロペラの音で消えそうな声をギミは聞き取っていた。
「病院は・・・・パランです。ギドンさんに連絡をしてください。」
それだけ言うと、ヘリは上昇してパランに向かって飛んで行った。
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