思わぬ同居人 46
「教科書にあんな風に落書きなんかしていたら、勉強が出来なくても当たり前だろう。」
「何の事よ。」
「スンジョ・・スンジョ・・・・好き好き・・デートしたい?妄想だけでオレとデートか?」
言い過ぎたと思っていた。
思っていたけど、あの気にくわないポン・ジュングがハニへの贈る歌を歌っているのを聞いたら、無性に腹が立って仕方が無かった。
オレらしくないと判っていたけど、平静さを失っていたのだろうか、担任がアイツのせいでオレがテハン大に行けなかったと言いだして、それを訂正しているつもりでいたら、言わなくてもいい一言から始まったことだった。
別にハニのせいでテハン大に行けなくなったわけじゃないと言えば済んだ事だった。
売り言葉に買い言葉。
オレとハニはいつもそんな風に言い争っていたが、あそこまで傷つけるつもりも無かったし、あんな行動を取ることも無かった。
オレの部屋に忘れた英語の教科書の落書きを、面白おかしく話さなければ、ハニもオレのブラックな過去を、公にすることはなかった。
「そんな事を・・・・・そんな事を言うの?」
「言って何が悪い?本当の事だろう。」
「冷徹男!」
「その冷徹男の事を好きなのは誰だ?嫌いだ嫌いだと言って、教科書にそんなくだらないことを書いて。」
さすがにオレとハニの言い合いを、引き気味になっていたのは知っていた。
「そう・・・そうなの・・」
キラリとハニの目が光ったのは、あれは涙だった。
その涙をこらえるように、唇をグッと噛んだかと思うと、制服のポケットから何かを取り出し、それを上げて、そこにいた1クラスと7クラスの皆に見えるように振り回した。
「判ったわよ・・・みんなぁ~これがペク・スンジョの人に言えない事よ。」
「何?女の子よ・・・」
「胸の名札・・・ペク・スンジョ・・ペク・スンジョが女の子の格好をしている。」
「お前!・・・」
「天才君がこんな事も知らなかったの?写真が一枚しかないとでも思っていたの?」
隠したいオレの人には言えないブラックな過去。
前に成績50番に入る事が出来た時に、取り返したのをまだコイツは持っていた。
「おばさんがね、何枚かを私にくれたの。スンジョ君が意地悪をしたら、これを使ってって・・・」
お袋が・・・・ お袋はオレをどれだけ苦しめるんだ。
こんな奴とくっつけたいがために、オレが一番人に知られたくないことまで使うのか?
スンジョは、腕を高く上げて写真をヒラヒラとさせているハニの手を掴み取り上げた。
その写真を握りつぶして、遮音会場からハニを連れだした。
ふたりの後で誰かがからかうように言っている言葉など、怒りが込み上げていたスンジョには聞こえない。
「どこに行くのよ・・・・」
「・・・・・」
「手を離して・・・痛いよ・・・」
ハニが悪いわけじゃないし、お袋も汚い手を使っているが悪くない。
悪いのはオレだ。
お前の心を傷つける事を言ったのだから。
でも、どうしようもないくらいにお前を押さえつけたい気持ちを、自分ではどうする事も出来ない。
誰もいない店の裏口に来ると、スンジョはハニを壁に抑え込んで逃げられないようにした。
ハニの怯えたような目を、射るようなスンジョの怒りがこみあげている目に、震えながらも平気な顔をしてハニは抵抗した。
「何よ・・・・凄んだって怖くないんだから・・・」
「・・・・・」
「スンジョ君の事を好きなのをバカにして・・・もうスンジョ君の事を好きなのを辞める。」
「へぇ~、オレの事を好きなのを辞めるんだ。」
「辞めるよ。大学に行って素敵な人と出会って・・・素敵な人と恋をするんだから・・・もうスンジョ君の事を好きなのを辞めるし、好きだった事を忘れるだから。」
「好きなのも忘れるんだ・・・」
「忘れるよ。」
「なら、忘れて見ろよ・・」
あのハニの良く動く口を塞ぎたかっただけじゃない。
オレの事を好きだと言っていたのに、忘れると言ったハニの言葉を止めたかっただけだ。
あの時に触れたハニの柔らかくて温かい唇に、オレは現実に戻ったけれど、自分の動揺を誤魔化すためにアイツから離れた時に出た言葉はオレ自身に言った言葉だった。
「バ~カ。」
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