あなたに逢いたくて 83
「スンジョ君・・・スンジョ君でも怖いことがあるの?」
ハニがオレをスンジョ君と呼んでくれている。
あの頃と変わらない音階で、昔のようにオレを呼んでくれている。
「ああ・・・・・知らなかったのか?」
スンジョの優しい声が耳元で囁かれると、身体から力が抜けそうになって来る。
スンハに異常が無かった事と、パパやおばさんおじさんの顔を見たら安心したのか、スンジョ君と素直に呼べた。
肩に置かれたスンジョ君の手が、温かくてこんなに気持ちが楽になったのは尚ビリのような気がする。
「兄貴?」
その呼びかけに、ハニから離れてスンジョは振り向いた。
ハニもスンジョが振り向いた方に顔を向けると、ハニがスンジョに一目ぼれした時と同じパラン高校の制服を着たあの頃と間違えそうなくらいに似ている少年が立っていた。
「なに、ボケっとしてんだよ・・・馬鹿オ・ハニ。」
「ウンジョ君?小学生だった・・・・・・」
スンジョより少しポッチャリして背も少し低いが、口の聞き方は小学生の頃のままのウンジョが立っていた。
片方の口角を上げてニヤッと笑うその顔は、本当にスンジョとそっくりだった。
「ハニ・・・ウンジョは、可愛い彼女とラブラブなんだ。」
「兄貴!」
いつの間にかウンジョは<お兄ちゃん>から<兄貴>とスンジョを呼ぶのが変わっていた。
「言われた物を持って来た。それにしても、その白衣はグロテスクだね。マンションに帰って休めばいいのにさ。」
マンション?スンジョ君、まだあのマンションにいるの?
「あのマンションにいるんだ・・・・・」
ハニの考えていることが判ったのか、スンジョはマンションにいると言った。
「ハニがソウルを立ってから、一時期お袋が家に入れてくれなかったんだ。それに、オレ自身ハニとの思い出が沢山あるマンションでいた方が落ち着いたからな。」
「兄貴さ・・・・随分と酷かったんだ。」
酷かったって・・・・・・完璧なスンジョ君が酷かったってどういうことなの?
「余計なこと言うなよ。恥ずかしいだろう・・・・」
「・・・しえて・・・・・教えて。スンジョ君、私がいない時どうしていたの?」
「兄貴さ・・・結構落ち込んで、ハニが・・・ハニ姉さんが落ち込んだ時みたいに、眠れなかったのか幽霊みたいだったんだ。家に来ても、ぼうっとしてハニ姉さんのベッドで・・・・・・・・止めとこ・・余計なこと言うと後から怒られるから。スンハちゃんを見てくる。」
スンジョの知らないハニの五年間と、ハニの知らないスンジョの五年間。
お互いにどんなふうに暮らしていたのか気にはなっていたが、その五年間を聞く勇気がなかった。
「ハニが妊娠して、オレに伝える事も出来なくて、ツワリで苦しみ、胎動を感じて母になる実感に喜び・・・・・スンハが産まれる前の辛い陣痛・・・元気な産声を上げて誕生したスンハ・・・初めて笑って、初めての歯が生え初めての言葉・・・・初めて歩いたり走ったり・・・・・自分の子供の成長が知らないのは哀しいが、これからは二人でスンハの成長を見て行こう。ギミさんだって判ってくれるさ、ハニがどこにいるのが一番いいのか。オレが公衆衛生医師としての任務が終わったら、ソウルで親しい人だけを呼んで結婚式をしよう。
スンハが暫く入院している間に、スンハをオレの子供として籍に入れてオレ達の婚姻届を出そう。」
「スンジョ君・・・・・・・・」
「オレは、担当した医師として付いて来ていることになっているから、直ぐに戻らないといけない。お袋に頼んであるから、一緒に届けを出してスンハと三人、本当の家族になろう。」
華やかな結婚式はしなくとも、スンジョの妻として子供として暮らせるのなら、ハニもスンハもそれが一番幸せだとハニは素直に思った。
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