あなたに逢いたくて 84
スンジョが離島の診療所に戻ってしまい、スンハの病室にグミと二人で看病をしていると、今まで気を張り詰めてスンハと過ごしてきた五年間が随分と昔のように思えた。
グミはやっと触れる事が出来る孫のスンハを愛しくて仕方が無かった。
何事も無くスンジョとハニが結婚をしていれば、念願の女の子が産まれたと家族全員で祝福をしていたはず。
実の父と祖母にだけ伝えて、遠い島で一人で産んで育てていた。
誰が何と言おうと、この可愛い女の子が自分の息子の子供で孫だ。
幼い頃のスンジョの寝顔とよく似ていた。
「可愛い顔をして眠っているわね・・・・・・・おばあちゃんと一緒とはいえ、よくここまで育ててくれて・・・スンジョの話は受けてくれるわね?」
ハニは恥ずかしそうに頷いた。
「はい・・・・スンジョ君と・・・スンジョ君と結婚します。スンハもスンジョ君にとても懐いていて・・・酷い母親ですよね。幼いわが子に、スンジョ君が父親だと言ってはいけないと言う事は・・・・」
「いいのよ、あの時の事を考えれば、何も言わずに去って行くハニちゃんの気持ちも判るわ。」
昔と変わらないグミのハニを実の娘のように思う気持ちは、優しくて温かだった。
幼い時に亡くした母の温もりは殆ど覚えていない。
病気で入院をしていたベッドの上から、お見舞いに行くとこちらを見ている顔が自分の母の顔だった。
温かい母の温もりは、これほど心が安らかになるとは知らなかった。
スンジョが島に戻って直ぐに、ハニの所にギミから連絡が入った。
「ハニ、ペク先生から話しは聞いた。おばあちゃんの事を心配していることは判っていたけど、ハニが来るまでスエさんと二人でずっと診療所の手伝いはやって来ていた。ハニぐらいの看護師だったらすぐに見つかるから、先生の申し出を素直に受けるんだよ。結婚前にできた娘を、普通は簡単には認知しないものだ。スンハも慕っているし、ペク先生も可愛がっているじゃないか。生涯をこんな老人ばかりの島で過ごすんじゃない。スンハは頭のいい子だ、都会でちゃんとした教育を受けさせないと後悔するのはハニだ。お前の父さんもそう言っていたぞスンハのためにも、こっちに帰って来る時は新しいオ・ハニとペク・スンハとして帰って来るんだ。おばあちゃんの言う事が聞けないなら島に帰って来なくてもいいから。」
口の悪いギミの精一杯の気持ちだ。
みんなが自分がスンジョとの結婚を望んでいる。
スンジョへの想いが絶ちきれず辛い五年間を過ごしていたけど、みんなが祝福をして来ることが嬉しかった。
「おばさん・・・・・よろしくお願いします。」
「そうと決まったら、今からうちの弁護士に手続きをしてもらわないと・・・・これでハニちゃんは私の本当の娘になるのね。スンハちゃんも私の孫として公に披露しないと・・・・あ~幸せぇ~。忙しくなるわね・・・・」
グミは昔、ハニと一緒に住んでいた頃のように、抱きしめて頬ずりをした。
そのまま、本当に嬉しそうに病室を出て行った。
「オ・・・オンマ?」
「スンハ、起きたの?」
ずっと眠り続けていたスンハは、見慣れない場所に驚いてキョロキョロとしていた。
「ここ・・・どこ?」
「ソウルの病院よ。スンハは、覚えている?いつもキイキイと言っていたブランコの鎖が切れて落ちちゃったの・・・・いっぱい眠っている間に、オンマと・・・・・・・アッパと一緒にここに来たのよ・・・・」
全身打撲で身体が痛いのを我慢しながら、まだ顔をキョロキョロと動かして何かを探していた。
「アッパは?」
「アッパはね、直ぐに島に戻らないといけないから戻ったの・・・・スンハは少しの間、ここに入院するんだよ。おじいちゃんと・・・・あと・・・・・ハルモニとハラボジ(*おじいちゃんとおばあちゃんですがどっちの祖父母か区別をつけるためグミとスチャンをこの呼び方にします)・・アッパの弟のウンジョお兄ちゃんも来たのよ。」
沢山の人に囲まれることが好きなスンハは嬉しそうにした。
「いっぱいだね。オンマ・・・・ペク先生の事、これからはアッパって言っていいの?」
遠慮しがちにハニに聞くスンハの言葉が、ハニはこんな小さな子供に、随分と可哀そうなことをしたと思った。
「いいよ。オンマね、アッパと結婚したの。お嫁さんのドレスはまだだけど、スンハはオ・スンハからペク・スンハに変わるんだよ。」
正式な結婚式はしていないが、スンジョが島に戻る前にスンハの首に掛けてあったチェーンから指輪を外してスンジョに渡した。
五年間の空白を埋めるにはまだ時間が掛かるが、離れていても二人の間には何の戸惑いもない。
やっとお互いがいるべき場所にいることが出来る喜びを、これから親子三人で守っていくことが夢のようだった。
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