思わぬ同居人 60
夕食が出来たとグミの呼ぶ声に気が付くまで、本に夢中になっていた。
テニス部の練習を理由もないのに途中で切り上げて、予約していた本が入荷したと連絡を受けていたから寄り道をして帰宅した。
それでも、暫くしたらハニが帰って来るはずなのに、帰って来た形跡がない。
いつもは、夕食の支度をするお袋を手伝っている声が聞こえるが、今日はハニが騒がしくしている声が聞こえない。
「お兄ちゃん、座って・・・・どうかしたの?」
「今日はまだ帰っていないのか?」
「ハニちゃん?」
「ああ・・・・」
「ギドンさんが店の手伝いをして欲しいって言っていたみたいで、夕食はギドンさんと食べて来るみたい。」
おじさんの店の手伝いか・・・ 料理は出来ないけど、配膳下膳は手慣れていた。
きっと子供の頃から店を手伝っていたのだろう。
「お兄ちゃん、お替わりはいらないの?」
「ああ・・・読み掛けの本があるから、もう少しで切りが付くところなんだ。片付けが終わったらコーヒーを持って来て欲しい。」
「ハニちゃんがいつも淹れていたけど、私の味でもよかったの?」
「別に、ハニが淹れたのじゃないといけない訳じゃない。」
「カッコつけないで、素直にハニちゃんのコーヒーが飲みたいと言えばいいのに~」
ハニが来るまでは、お袋の淹れたコーヒーを飲んでいたが、ハニが来てからずっとハニが何も言わないで、淹れて持って来てくれている。
まるで夫婦か恋人のように、飲みたいと思った時に何も言わないのに持って来てくれていた。
こうしてお袋のコーヒーを飲むと、ハニの淹れたコーヒーが飲みたくなってくる。
「あれ?スンジョ君、どうしてここで本を読んでいるの?」
「自分の家だから、どこで本を読もうと自由だろう。」
「コーヒー・・・自分で淹れたの?」
「お袋だ・・・お前の代わりに淹れてくれたよ。」
スンジョの言った言葉にハニは嬉しそうに笑っていた。
こんな事を言う気も無かったけど、オレはどうかしたのだろうか?
「お前の淹れたコーヒーが一番うまい。」
「じゃ・・・じゃあ・・・淹れて来るね。」
別に今飲んですぐに飲みたいわけじゃないけど・・・まぁ、いいか・・・
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