思わぬ同居人 64
静かに本が読める毎日に、窓を開けて眠っても独り言が聞こえない静かな夜。
風呂に入れと言う面倒な事もしなくてもいいし、風呂に入って甘ったるい香りがしないで落ち着いて入る事が出来る入浴タイム。
トイレも、鍵を掛けずに入ってもいきなり開けられることも無い。
何かに騒々しくぶつかる音も無い。
お袋が笑って、楽しそうに話している声も聞こえない。
ハニが来る前はこんな静かな日々を過ごしていたのだ。
そういった生活に戻りたいと思っていたのは同居を始めた頃で、最近はハニのする事や話している事に耳を傾けている自分がいた。
「お兄ちゃん、お腹が空いたよ。」
ウンジョが来るまで本を読んでいたが、ずっと同じ個所を読んでいた。
「ママは?」
「今日も、具合が悪いからって横になってる。」
お袋だけじゃなく、オレもウンジョも親父も元気がなかったか体調が悪くなっていた。
両親の寝室をノックしても、在宅している母の返事は聞こえない。
静かにドアを開けると、グミはこちらに背を向けてベッドで横になっていた。
「食事・・ウンジョがお腹が空いたって・・・」
「何か頼んで・・それか食べに行ったら?」
「ずっと横になっているとよくないよ。」
「起きたくないの。」
「友達と会ったり、写真を撮りに行ったり、ブログを書いたり・・・・」
「なぁんにもしたくないの。お兄ちゃんは何ともないの?ハニちゃんと一緒にいる時に、怒ったり笑ったり、人のことなんてどうでもいいと思っていたお兄ちゃんが、初めて心を乱された人でしょ?毎日が退屈でつまらないから、人に無関心だったのでしょ?本当にハニちゃんがいなくなって何とも感じないの?」 「ウンジョと外へ食事に行くよ。」
スンジョは、母の質問に答えることなく、開けたドアをまた静かに閉めた。
家に帰っても、今日お袋は久しぶりに親父と一泊でゴルフに行って家にはウンジョしかいない。
外出をしないお袋を、元気づける為に親父が誘って行くことになった。
ウンジョ相手に何かをするわけでもないし、勉強も教える事が無いから大学の図書館で調べ物をして時間を潰していた。
大学にいても、理工学部と社会科学部は校舎が離れていても、学食で会いそうなのに一度も会った事が無かった。
テニス部に行けばハニと会う事はあったが、行ってもハニは体調が悪いとかで休んでいた。
平穏な毎日が送れているはずなのに、お袋と同じように何かやりたい事も特に思いつけなかった。
理工学部にいても、何かつまらないと思うのは、ハニが家を出たからだけではない気もする。
来年には自由専攻から、何を専攻するのかを決めなければいけいない。
「そろそろ、家に帰るか。ウンジョも一人で留守番をしているから、早く帰って何かたまには作ってやらないといけないな。」
貸出できる本は借りて、その他の本は書棚に返して図書館を出る時に、家から電話が掛って来た。
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