思わぬ同居人 65
「もしもし、ウンジョ?」
<スンジョ君・・あの・・スンジョ君・・・>
「何で家を出て行ったお前がオレの家から電話を掛けているんだ。」
<スンジョ君・・・大変なの・・・ウンジョ君が・・・>
電話の向こうで泣きながら震えているハニの声の後で、ウンジョが苦しんでいる声が聞こえる。
尋常じゃないハニの声は、とてもまともに話せないくらいにパニックになっているのが伝わって来た。
「どうかしたのか?ウンジョがどうかしたのか?」
大きな声でパニックになっている電話の向こうのハニに言っても、周囲がオレが怒鳴っているとしか思うだろうし、ハニも怯えて冷静にはなれない。
「いいか、落ち着いてやればできる。まず、いつから吐いていたのか、熱はあるのか、意識はあるのか、それを救急隊が来た時に言えるようにメモを取っておくんだ。それよりも先に、ウンジョが吐いた物を喉に詰まらせたりしない様に、横に向けて服のボタンを外して楽にさせておくんだ・・・・落ち着いてやればできるから。オレも直ぐに病院に向かう。病院はパラン大がいい・・・そこなら今オレがいる所から近いから心配するな。」
幾分ハニは落ち着いて聞いていたが、だからと言ってハニに任せっぱなしには出来ない。
お袋達は一泊二日でゴルフ旅行だと言ってオレに家で泊まるように言ったが、帰って来るのは明日の夜遅い時間だ。
病院に行く前に、お袋達に一言言っておかなければいけないな。
「親父?今、コースを回っている時間ですよね・・・・・実は、ハニから電話があって、ウンジョが・・・・・パラン大に運んでもらうように言ってあります。詳しい事はオレも今からパラン大に行くので、また連絡しますが・・・・明日・・出来れば早い飛行機の便で帰って来て貰えますか?・・・・・ウンジョも初めての事で不安だろうから・・・・・」
もう着いているかもしれない。
急がないと、ハニも不安だろう。
オレはこんな状況なのに、病気で運ばれている自分の弟よりただの同居人のハニが心配で仕方がない。
スンジョがパラン大病院に着いたころには、ウンジョは緊急手術を受けていた。
同意書の書類に書かれているサインは『オ・ハニ』間柄『従姉』。
従姉か・・・・この状況に同居人と書かなかっただけでも、ハニはウンジョを頼むと言ったオレの言葉をそのまま受け入れてくれていたんだ。
「ハニ・・・・」
呼びかけて振り向いたハニは、今にも倒れそうなほど震えていた。
「ありがとう、担当してくれている先生が、応急処置がよくできていたと褒めていたぞ。」
ハニは、自分がまた大きな失敗をしてしまうのじゃないかと思って怖かったと何度も泣いた。
オレの胸にスッポリと収まるハニは、こんなに華奢だったのかと今になって気が付いた。
能天気に何も気にしていない様に馬鹿みたいに笑って、ストーカーの如くオレを追い回していたハニが、肩を震わせて声も出せずに泣いている。
この時オレは、ハニを守りたいと思っていた。
こんな風にオレが人を守りたいと思ったのは、人生で初めての事だった。
思わぬ同居人が、オレを人にさせてくれたような気がした。
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