思わぬ同居人 66
「スンジョ!今日は練習しないのか?」
「先輩、病院に行くので。」
「そうだったな、弟が入院をしたんだって?大丈夫か?」
「ええ、術後の経過も良くてあと一週間で退院が出来ます。」
ウンジョの入院を理由にして、テニスの練習を休んで病院に行く。
そう誰でも思っているのだろう。
勿論お袋もそう思ってはいるが、実のところ別の目的もあった。
真っ直ぐにウンジョの病室に向かうが、廊下を歩くだけで興味がある場所に目が移ったり、興味のある会話を耳にする。
今まで自分が得た知識とは別の分野。
興味があって調べて得た知識も多少はあるが、もっと知りたいと思って病院に来ていた。
そしてもう一つ興味が湧いたもの・・・・・
ウンジョの病室から聞こえる賑やかな声。
グミとハニが楽しそうに話している姿は、毎日目にしていた。
ハニがペク家を出て行った時に、グミは塞いで寝込んでいた。
最近になってやっと起きて家事をするようになったが、出て行ったばかりの頃は本当に心配だった。
「あなたは何ともないの?」
そうグミに聞かれた時、平気な振りをしていたが本当は平気ではなかった。
主のいなくなった部屋を覗いたり、静かな家の中を見廻していたり、知らない間に自分の生活の中に馴染んで来たバカでドジでどうしようもなく場の空気が読めない人間に興味を持ち始めていた。
そう、その人物は今自分の目の前で母と騒いでいるハニ。
「あっ!スンジョ君!」
「ほら、ハニは僕のお見舞いじゃなくて、お兄ちゃんを待っていたんだ。」
からかうウンジョの言葉にオレは何も言わなかった。
何故なら、オレもウンジョを見舞いに来るのを口実で、興味のある事の一つの為に毎日通っているのだから。
グミは、夕方になると夕食の準備をしたいからと、スンジョとハニにウンジョの付き添いを頼んで先に家に帰った。
事実ではあるが、グミは二人が親密になるように仕組んでいるのもあった。
当然スンジョはグミの想いを判っていたが、素直にそれを口に出したりしないの。
「じゃ・・お兄ちゃんは帰るから、消灯時間になる前にトイレに行って眠るんだぞ。」
「大丈夫だよ、赤ちゃんじゃないし・・・ママみたいだよお兄ちゃん。」
「寝る前に沢山水分を摂ったら、おねしょするからネ。」
「ハニじゃないし・・・」
「私はおねしょしないわ!」
同レベルな会話を聞きながらスンジョが病室を出て行くと、一緒に帰ろうとハニが急いで追いかけて来た。
「一緒に帰ろうよ。」
「ヤダよ。」
「可愛い女の子が、事件に巻き込まれたら困るでしょう。」
「別に・・・」
そんな他愛も無い会話をしながら、≪ソ・パルボクククス≫へと通じる道を歩いていた。
「ウンジョ君と同じ病室の子・・ノルちゃん・・」
「ノンちゃん・・」
「そうノンちゃんね、もう何度も入退院をしているんだって。小さいのに可哀想ね。スンジョ君がお医者さんになったら、簡単に治してあげられるのに。」
「勝手な事を言うなよ。」
「ううん・・・スンジョ君はその頭脳を人の為に使った方がいいと思うの。病気で苦しんでいる人をスンジョ君なら簡単に治してくれるの・・・・ねえ、お医者さんになったら?自由専攻だから、医学部に移ってもいいんでしょ?」
「そうだけど・・・お前がオレの進路を決めるのか?」
「うん・・・決めるって言うか、スンジョ君ならお医者さんになった方が向いていると思うの。」
その時のハニとの会話が、オレの人生とハニの人生を変えるとは思ってもいなかった。
この思いもよらない言葉を、簡単にオレに言う思わぬ同居人のオ・ハニが・・・・
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