あなたに逢いたくて 86
携帯の通話を終えて、ハニから聞いた話を思い出していると、自然にクスッと笑いがこぼれた。
「先生のその表情、良いね。」
いつの間にか、ギミがお茶を持って静かに診察室に入って来た。
「ギミさん・・・・・」
「ハニからの電話だろ?報告したんだね。」
スンジョが持っている婚姻証明とスンハの認知証明を横目で見て聞いた。
「スンハに怪我をさせてしまいましたが、すれ違ったハニとの思いがやっと通じることが出来たので、お恥ずかしいですが我慢が出来ずに、届いたことを島に帰ってからまでは待てなかったのです。まだ5歳のスンハが友達もいないこの島で、たった一人で遊ぶのが良いことではない。スンハはハニが好きだから、ハニが悲しむ顔を煮たくないから、言いたくてもオレの事をアッパと言えない・・・・ハニがどうしてオレと結婚するのを拒むのかは、ギミさんの事ばかりではないんです。突然子供がいることが公表されたらオレの将来に足枷になるのじゃないか・・・・・・一人で子供を育てる事の方が大変なのに、ハニはいつでも自分より他人を思いやり過ぎるくらい思いやるんです。」
スンジョの安心しているような笑顔に、ギミは大切な孫娘をこの男に本当に任せても大丈夫だと思った。
「自分より他人・・・・それはペク先生も同じじゃないかね?休職中の病院にスンハの事を連絡をする時に、独身のはずが、いきなり自分の娘と言ってスンハをと言って搬送したのは。」
照れて笑うスンジョは昔の冷たい心を閉ざしたスンジョとは別人のように幸せで優しくて温かい表情だった。
「自分の愚かで人の意見を聞かない思い違いをした行動が、本当に守りたい宝物であるハニとスンハに辛い思いをさせて、申し訳なくて・・・・・・ハニは恋人とか妻だという以上に、オレの心の一部分なんです。」
ギミさんが入れたお茶は、ハニが入れてくれるコーヒーと同じでどこか心がホッとして素直に何でも言えそうな気分になってくる。
「オンマァ~!ただいま」
グミと買い物に出かけていたスンハは、大きな熊のぬいぐるみを大事そうに抱えて帰って来た。
「ハニちゃん、ただいま。今日はとっても楽しかったわ。」
グミは両手に抱えられないほどの袋を提げていた。
「おばさん・・・・その荷物は・・・・・・」
「おばさんじゃなくて、お母さんと呼んで。スンジョから連絡があったのじゃないかしら。あなた達は、誰が何と言おうと正真正銘のペク家の人間よ。これで本当にハニちゃんが私の娘になったのね。娘ばかりじゃなく、こんなに可愛い孫まで一度に出来て・・・・夢見たいよ。ああ・・ハニちゃんスンハちゃん・・・・」
口に出して言えた言葉に、グミは薄っすらと涙を浮かべて、スンハとハニを抱き寄せた。
「ハニ・・・・・良かったな。お前はグミさんがお母さんだったら・・って、いつも言っていただろう?」
ハニは、嬉しそうに小さな声で、自分がずっと言いたかった言葉を言った。
「お・・お母さん・・・・・・。」
「ハニちゃん・・・もう一度呼んでくれるかしら?」
「お母さん・・・・・・」
「嬉しいわぁ・・・・・・服務期間が済んで、スンジョがソウルに戻ったら盛大に披露しないと・・・・・・・・」
ギドンの店の中は、スンハの可愛らしい声とグミとハニの笑い声が幸せを物語っていた。
スンハの外出で、後遺症など見られなく、体調に問題が無いと言う事で翌々日には退院をし五年ぶりのペク家の門をくぐった。
涙で出て行った時と違い、今日は五年分の思いを一つづつ確かめるように玄関に通じる階段をスンハとグミと一緒にハニは上がって行った。
玄関を開けると、ハニが出会った頃のスンジョとよく似たウンジョが、可愛らしい女の子と本当の家族になった二人を迎えてくれた。
「ハニ姉さんお帰り。」
馬鹿ハニと呼んでいた子生意気なウンジョも、いつしか高校生になり、付き合っている女の子を紹介してくれた。
「ハン・ミアです。」
「ウンジョったらね、中学生になって直ぐにミアちゃんからラブレターを貰ったのよ。可愛い女の子でしょ?やっぱり兄弟よね・・・・ハニちゃんとよく似た素直な女の子を選ぶんだから。」
ハニはミアを見て、妹が欲しかったから一目見ただけでミアを気に入った。
「オレは兄貴と違って、美人で頭の良い人を彼女にしたかったけど・・・・しつこくオレを好きだ好きだと言うから仕方なく・・・・・」
「違うよ、ラブレターを渡したけど最初は振られたの。頭の悪い女は嫌いだって。」
スンジョとハニとよく似た出会い。
この二人には、自分たちのようなことが起きないと信じた。
スンジョが帰って来たら暮らすことになるハニの部屋は、スンジョの使っていた部屋を素敵にリフォームされていた。
中央に大きなベッドが既に用意され、スンハの部屋はハニ達の部屋の隣に用意されていた。
ハニは、スンジョと眠ることになるベッドでスンハと二人これからのことを話しながら、その日の夜は親子三人で手を繋いで歩く夢を見ながら、今まで心を楽にすることが出来なかった分深い眠りに入って行った。
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