あなたに逢いたくて 87
「ペ・・・ク・・・・スン・・・・ハ」
「まぁ~上手に名前が書けたわね。さすが、ハニちゃんの子供ね。」
スンハがスンジョ君の子供として認知され、今まで島にいる時はオ・スンハと名前を書く練習をしていたスンハが、グミの提案で今日からはペク・スンハとして名前の練習を始めていた。
「お袋、ハニ姉さんじゃなくて兄貴に似たんだよ。」
おばさんとウンジョ君の会話に、目を輝かせて見ているスンハが嬉しそうで、今までスンジョ君の思いを拒んできたことに少し後悔した。
私とおばあちゃんと暮らしていた時は、昼の間に診療所の手伝いをしているスエさんや、診察に来る患者が話す相手になってくれたけど、みんな年を取っているからスンハが話す事を聞いているだけだった。
赴任してくる医師とは、診察室に入ってはいけないと言われていたから、話したり遊んだりすることも無かった。
こんな風に賑やかに話している、おばさんとウンジョ君が毎日のようにスンハの傍にいてくれたことで、直ぐに二人に慣れる事が出来たみたいだった。
スンジョ君は、私がパランで看護師の試験で会った時は、ヘラとの婚約がなくなっていた事を知ったし・・・・・私が嘘を吐いている事も判っていたのに何も言わないで手を差し伸べてくれた。それなのに、私はキム先生を利用して、あんなに痩せてしまっていたスンジョ君を傷つけて・・・・・
行先もパパに頼んで内緒にしていたのに、私をずっと探してくれていた。
人の心を思いやることを知らなかったスンジョ君。
人の噂になることを嫌がるスンジョ君。
それでも、スンハはオレのハッキリと自分の娘と言ってくれて、スンハが怪我をしてパニックになっていた私を励ましてくれたスンジョ君。
夢じゃないよね、私はスンジョ君の奥さんに本当になるんだよね。
スンハがパラン大付属病院を退院して直ぐに、入籍を祝う内輪だけの顔合わせをする為に、ハニとスンハは、スチャン・グミ・ウンジョそしてハニの父ギドンと一緒に、スンジョとミの待つ島の船着き場に降り立った。
ギドンは、結婚をしてこの島を出て以来何十年ぶりかの島を懐かしそうにあたりを見回していた。
「ギミさんの息子のギドンか?」
漁師であり、船着き場の切符売りのおじさんが声を掛けた。
スンハは顔見知りの切符売り場のおじさんに「ただいま」と言って、停まっていたワゴン車に乗り込んだ。
「いつも、母がお世話になってます。」
「やっぱりそうか、昔は島に来た時によく一緒に海に潜った。あの頃にお前が付けたあだ名の歯無しのソンウだ。ハニとペク先生が良い雰囲気だったど思ったけど、恋人同士だったとはな・・・・何はともあれ、まあ目出度いことだ。」
小さな島では、誰と誰が喧嘩した。どこぞの誰が、酔っ払って道端で寝た。
と、小さなことも島の皆が知っていた。
島の巡回をしているスンジョの後ろを、幸せそうに付いているハニの姿を見たり、スンハやハニを愛おしそうに見ているスンジョの事を、この島の人は何も言わなかったが、二人は心で繋がっていると誰もが感じていた。
十年は乗っているだろう今にも壊れそうなワゴン車の窓を開けて、スンハが島の皆に挨拶をしていると、噂を聞いていた島の人々はハニにお祝いの言葉をかけた。
「良い所ね。ここでスンハちゃんが産まれて、五年間を過ごしたのね。」
「何もない所なんですよ。ここはソウルから釣りに来る人だけで、特別観光地でもないですが、ここに来ると心の疲れを癒すと言って、常連の釣り人しか来ない所なんですよ。ワシはここには母に連れられ、夏休みを過ごしたことしかありませんがね。」
「おばあちゃ~ん」
診療所に到着すると、ギミとスンジョが外に出てみんなの到着を待っていた。
スンハはワゴン車が停まると、勢いよく駆け下りてスンジョに飛びついた。
「アッパ、アッパ、スンハのアッパ。嬉しいな、アッパ・・・・アッパ大好き!」
「スンハ・・アッパもスンハが好きだよ・・・・・。でも、スンハのオンマが世界一大好きだ。」
スンジョのそんな言葉を初めて聞き、ハニは嬉しくて涙が出て来た。
グミもスチャンも、決して人前で自分の思いを素直に伝えることが出来なかったスンジョが、長い年月を掛けてようやく出来るようになったのはハニのお蔭だと思った。
0コメント