あなたに逢いたくて 88
「おばさん、ご無沙汰をしています。昔と違って、髪も少なくなって肥ったから、挨拶をしないと気が付かないですよね。妻のファン・グミに二男のウンジョです。この度はお招きくださってありがとうございます。」
「スチャン、昔と変わっていないからすぐに判ったよ。それに、立派な息子を持ったな。頑固なハニを諦めずに説得してくれて。これからはわしの孫娘のハニとひ孫のスンハをよろしく頼むよ。さあ・・・中に入ってくれ、簡単な祝い膳を用意したから。」
ギミに案内され、スチャン達は家の中に入って行った。
父と母が家の中に入って行き二人っきりになったのを確認をすると、スンジョはハニの腕を取り自分の胸にグィッと引き寄せた。
「待ち遠しかった。あの駅での別れの後から、ずっとハニをこんな風に抱き寄せたかった。」
「スンジョ君・・・・・恥かしいよ。誰かに見られちゃう・・・・」
「遠回りをしたけど、オレ達はやっと夫婦になったんだ。誰かに見られてもオレは平気だし、これからもずっとハニに堂々と触れたい・・・・・・・・愛してる・・・愛している。」
スンジョに強く抱き寄せられると、ハニは緊張しながら恥かしそうにスンジョの背中に手を廻した。
五年前よりも身体は随分と鍛えたのか、細かったスンジョの身体はがっしりとして安心するくらいに逞しくなっていた。
家の中に中々入って来ないスンジョとハニを呼びに行こうと、スンハが靴を履いてドアを開けると、見つめ合っているスンジョとハニが外に立っていた。
今にもキスをするのではないかと言うくらいに顔が近かった。
ウンジョは、兄たちの姿を見てクスッと笑った。
「スンハ、お兄ちゃんとあっちに行こう。アッパとオンマの邪魔をしたらいけないよ。」
「いいなぁ~オンマ・・・・スンハもアッパにキュ~ッとしてほしいよぉ~。」
ウンジョは兄スンジョとハニが二人っきりになるように、スンハを連れて食事の用意されている部屋に向かった。
「もうハニを絶対に離さないから。どんなことがあってもオレを信じて付いて来てくれるか?」
「プロポーズみたい・・・・・・・」
スンジョは、恥かしそうに俯くハニの顎に指を掛けて顔を上向かせた。
「みたいじゃなくて、プロポーズを言ったのだけどな。オレは気の利いたプロポーズの言葉やサプライズは苦手だけど、今のオレに出来る事は精一杯の事はするから・・・・・・ハニとスンハと幸せな家庭を作りたいんだ。一緒に暮らせなかった五年間は取り戻せないけど、もうハニを悲しませたり、スンハニ我慢をさせる事はしたくない。」
「わ・・・・・本当に私でいいんだよね?ドジだし、看護師としても妻としても何もまともに出来ないよ。それでも、傍にいていいの?」
「ハニじゃなきゃダメなんだ。ハニがオレの傍にただいてくれるだけでいいんだ。ハニがいるからオレは本当の自分になれる。幸せだと感じるのもハニがいる時だけなんだ。」
スンジョがハニの口に軽くキスして、柔らかな髪に長い指を絡ませて、一度自分の胸にしっかりと抱き寄せてから、ゆっくりと今度は身体を離した。
「さあ、ギミさんとスエさんがごちそうを用意してくれている、みんなが待っている所に行こう。」
そう言いながら、ハニの手をしっかりと握って診療所の中に入っていった。
ソウルで見るような手の込んだ料理は何もないが、心のこもった温かな食事が並んでいた。
新鮮な魚に店では食べる事が出来ない昔ながらの家庭料理。
スチャンは昔世話になった時に好きだった、ギミの作った家庭料理を懐かしそうに食べていた。
「ハニちゃん、お祝いは何がいいかしら?ソウルにいた時に聞けばよかったのに、スンハちゃんといるのが楽しくて忘れていたの。」
「お・・・お母さん・・お祝いなんて良いです。スンハに沢山の洋服やらおもちゃや絵本を沢山買ってくださったり、私達のために部屋をリフォームしてくださったのですから。それだけで充分です。」
ハニは昔から自分からどうして欲しいとか、何が欲しいとか一度も言わなかった。
そんな無欲な所が、グミもハニを気に入っている一つだ。
「スンハね、スンハはね・・・・・赤ちゃんが欲しいの。」
スンハの発言で、大人たちは食べていた物を喉につまらせたりむせたりした。
「スンハちゃん、アッパとオンマはとっても仲が良いから直ぐに作ってくれるわよ。」
「お袋!」 「お母さん・・・」
子供はいつでも大人がビックリすることを突然何も考えずに言ってしまうことがある。
特にスンハはスンジョに似ているが、ハニに似ている部分もあるので、周りの人たちはそんな言葉に怒ったりすることもなく、かえってそれがその場を明るくすることもある。
「アッパ!アッパは何でもできるもんね!だから絶対に、赤ちゃん作ってね!」
スンジョも流石にスンハの言葉に、何も応える事が出来ずに、ただ顔を赤くして黙り込むだけだった。
「スンハちゃんのためにも、今夜からスンジョとハニちゃんには頑張ってもらわないとね。ほら二人とも、ギミさんが作ってくれた物をしっかり食べてスンハのお願いを聞いてあげてね。」
大好きなオンマとアッパの間で、嬉しそうにしているスンハは本当に二人がこうして出逢うために産まれてきた、大切な天からの贈り物だった。
身内だけでのスンジョとハニの入籍を祝う宴は、遅くまで賑やかに行なわれた。
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