あなたに逢いたくて 89
スンジョとハニの二人の入籍を祝う席は、深夜近くまで続いていたが興奮して起きていたスンハが居眠りを始めるとお開きになった。
離れに用意された二人の新居。
仮とはいえ、これから始まる夫婦として暮らす部屋は、ギミが精一杯若い二人に合わせて室内を飾ってくれた。
スンジョとハニは、眠ってしまったスンハを二人の部屋の隣に用意された子供部屋に抱いて入った。
そこは、昔はハニの父ギドンが使っていたと言う部屋で、新しいカーテンを取り付けてはあったがギドンが使っていた机と箪笥はそのままにして隅まで綺麗に掃除がされていた。
「スンハったら、沢山人が集まったから随分と興奮してたね。」
敷かれていた布団にスンハを寝かせると、布団を挟んで向かい合って二人はその可愛い寝顔を見ていた。
眠る我が子を見ているハニの顔に、スンジョは顔を近付けていきなりキスをした。
永い年月を得て、やっと辿り着いたお互いの場所は温かくて心も身体も休まる場所だった。
スンジョのキスは段々と深くなって行き一瞬唇を離した時に、眠っていたと思ったスンハがぱっちりと目を開けていた。
「アッパ~、スンハにもチュブして!」
いつの間にか起きていたスンハの声に、驚いた二人は顔を赤らめた。
「スンハ・・・・いつ・・・・いつ起きたの?」
「んとね・・アッパがスンハをお布団に寝かせてくれた時・・・・スンハね、嘘寝したの・・・・ねぇアッパ、スンハにチュブして。」
可愛い口を尖らせるスンハの頬にスンジョがキスをすると、拗ねたように起き上がって小さな指を口に当てた。
「オンマみたいにお口にして!」
オンマが大好きだったスンハは、ハニの目を気にしないでアッパと言えることが嬉しいかのように、ハニによく似た甘えた顔で言う姿を見て、スンジョとハニは顔を見合わせてクスッと笑った。
「スンハ、スンハも大きくなってアッパのように素敵な人に出逢ったらお口にしてもらいなさい。それまでお口にするキスは、大切に取っておかないと。」
「そうだよ、オンマはアッパだけが好きだったように、スンハもいつか出逢う森の妖精の王子様だけが好きでいないといけないから・・・・・さあ、もう寝ようね。明日もおばあちゃんとおじいちゃんたちと島を案内してあげなきゃいけないから。」
スンジョとハニに見守られて、スンハも安心したように直ぐに寝息を立てて眠りについた。
スンハが眠り、二人の新しい部屋に移ると、ソウルのペク家の部屋とは違って古びて小さな部屋に、新しい二組の寝具が用意されていた。
田舎の小さな離島で用意できる、精一杯のギミの心遣い。
布団を挟んで向かい合って座ると、本当に夫婦になったのだと思えて妙に緊張して来た。
何度も同じベッドで眠り愛し合ったのに、こうして長い年月を得て辿り着いたこの場所が、話す言葉も思い出せないくらいに、ハニだけではなくスンジョも緊張した。
「ここまで随分と遠回りしたな・・・・・・」
スンジョがポツリと話すと囁くように話した。
「私たちには辿らないといけない道だったのかもしれないよね。」
「知らない間に、ハニも勉強したんだな・・・・・」
「えっ?」
「昔のハニからは想像がつかないセリフだ。」
クスッと顔を見合わせて笑う二人は、やっと緊張が少し解けて来た。
ハニの方の布団に移り、招き入れると真綿を包み込むようにスンジョは優しくハニを抱き寄せた。
甘いハニの香りが頭が、これから毎日嗅ぐことが出来ると思うと、くらくらと麻痺をするように鼻孔をくすぐった。
「ハニ・・・・・・・愛してる・・・・・愛してる。もう二度と離れない・・・どんなことがあっても離さない。」
「私も・・・・・・私も離れない。最後まで、どんなことがあってもしがみついて行くから・・・・・・・」
「ああ・・・・・判ってる、オレも覚悟するから、ハニも覚悟しろよ。」
「ずっとずっと、スンジョ君だけを思ってたんだよ。スンジョ君だけしか好きになれないの・・・・・・」
「ああ・・・・・・判ってる。」
ハニの長くて柔らかな髪を撫でつけ、スンジョの綺麗な長い指がハニのふっくらした唇に触れた。
この唇がスンジョとハニの二人の恋の始まりだった。
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