あなたに逢いたくて 90
ハニは無意識にクルッと寝返りを打つと、温かくて居心地が良く幸せな感じがした。
そっと目を開けると、スンジョの整った寝顔が間近にあった。
筋の通った鼻に触れると、指先に伝わる体温が、夢の中でもなく本当に自分の横にスンジョが眠っているのだと思った。
「やっと、本当にスンジョ君の奥さんになったんだ・・・・・」
嬉しくて思わずクスッと笑うと、スンジョがハニの身体に廻している腕に力を入れた。
「スンジョ君?」
「まだ早い・・・・・もう少し眠っていよう。疲れただろう?」
「ううん・・・・幸せすぎて・・・・・・・夢みたい。」
離れていた五年の月日を埋めるように、何度も何度もお互いを求め愛し合い、ようやく眠りについたのは、東の空が白みかける頃だった。
「スンハが起きる時間だから・・・・・・スンハは寝つきはいいのだけど、朝私がいないと泣くの・・・・」
背中に廻されたスンジョの腕を外そうとすると、その腕にまた力が加わった。
「スンハはさっき、お袋と親父とおじさんの三人が、散歩に連れて行った。だから、ハニを探して泣く事も無いよ。もう少しハニとこうしていたい・・・・」
スンジョはそう言って、ハニの上に覆いかぶさるように最初は優しくハニの唇に触れ、ハニの目を優しく目を見つめてニッコリと笑い、ハニの柔らかな唇を味わうように徐々に強くしていった。
スンジョとハニの五年間の思いは、とても一晩では埋めることは出来ない。
何もかも捨てて、自分の想いを貫き通す事が出来ない二人は、自分の心を鎖で縛り外れないようにしていた。
遠回りしても出逢う二人だから、どんな困難でも乗り越えることがで出来る。
そこが本当の自分の居場所であるのかのように。
再会をしてからは、錆びついていた鎖が、スンハの乗っていたブランコの鎖のように錆びついて、少しづつ錆びた所が壊れて一気に外れた。
明るい朝の陽射しの中で見るハニは、出逢ったばかりの高校生のころと変わらず、スンジョと目が合うと人参のように顔を赤くさせ、それを誤魔化すように恥ずかしそうにクスッと笑った。
いつの間にか、同居してから数えると10年の歳月が流れていた。
幼さが残った高校生の頃の顔から、大人の色香を感じるハニだけど、スンジョの中ではいつまで経っても守ってあげたいほどに純粋だった。
ハニの目から涙が一筋静かに流れた。
それに気づいたスンジョが指の腹で、すくう様にそっと拭いた。
「疲れさせ過ぎたか?ハニを抱いたのは、随分と久しぶりだったから・・・ちょっと頑張りすぎたかな?その分、満足できたかな?奥様?」
「や・・・やだ・・・・そんなこと知らない。私は、スンジョ君だけだから・・・」
「ハニはオレだけを見ていたんだよな。オレだけを見ていたのに、オレはハニを手放してしまって・・・・・それでもこうしていられることが嬉しい・・・・・オレもこれからはハニだけをずっと愛し続けるから。」
「・・・・・・言って・・・・もう一回・・・・・・」
「何度でも言えるよ。ハニだけをずっと愛し続けるから。」
自分の気持ちを素直に言えたスンジョは、照れくさそうに笑ってハニの唇に優しくキスをした。
汗ばんだ身体を離さないで一つになったまま、二人で幸せな時間を過ごした余韻に浸っていると、散歩から帰って来たスンハの笑い声が聞こえて来た。
「帰ってきたみたいね。もう、起きないと・・・・・・・・」
「そうだな。これからはずっとハニと一緒にいられるのだから・・・・・・今日も、いつも通り巡回に一緒に行こう。明日も、明後日も・・・この島にいる間はずっとハニと一緒に巡回に行って、診療に訪れる人を診て、ハニがオレを手伝って看護師の仕事をして貰うよ。」
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