あなたに逢いたくて 91

スンジョとハニが夫婦として披露をしてから、島の老人宅に巡回を二人で仲良く歩いている姿が、冬の冷たい海風をも温かくするようで、島のちょっとした名物になっていた。

長身のスンジョの後を、ハニが時々離れそうになる間を摘めるように小走りに付いて行くと、スンジョが立ち止まってハニを待っている。

そっと差し出したスンジョの手を、嬉しそうに繋ぐハニの顔は高校生の女の子のように初々しくて可愛らしかった。

スンジョとハニが診療所に戻ると、スンハが二人に飛びつくようにして駆け寄る。

そんな日が毎日続き、それが普通の生活のように馴染んでいた。

スンハのはしゃぐ声が楽しくて、毎日毎日が五年間の苦しかった時間を忘れて行くように幸せが続いていた。

スンハが、春から半島の幼稚園に本格的に通い始めて一週間。

出来る限りハニはスンハの世話を自分でしていたが、半島の幼稚園に毎日送迎するのは、看護師として仕事をして疲れ切っているように見えたからなのか、ギミがもう好例だから楽な隠居生活をしたいと言って変わってくれていた。

ただ、半島に薬や細々した物を週一に買い出しに出掛ける時にはハニがスンハを幼稚園まで送迎していた。

今日は週に一度の半島に買い出しに行く日。

その日の朝からハニは、目覚めた時に立眩みがして身体の具合が悪かった。

眩暈だけではなく、熱っぽくて胃が少しムカムカしていた。

スンジョは早朝に、島の反対側に住んでいるおじいさんの喘息の発作が治まらないからと連絡があり、急きょ一人で往診に出掛けていた。

ギミは春の野菜の収穫の手伝いにスエさんと出掛け、診療所にはハニとスンハの二人だけ。

いつも通りスンハと一緒に朝食を摂っていると、強い吐き気が込み上げてシンクに走った。

「オンマ?」

苦しそうに吐いているハニを、スンハはどうする事も出来ずに心配そうに眺めていた。

「オンマ・・・・・・・大丈夫?」

「・・・・・・大丈夫・・・・・」

ハニはハッとした。

そういえば来るべきものがまだ来ていない。

周期は一度も狂ったことがなくピッタリ28日周期。

スンハが出来た時は、スチャンが倒れてバタバタとして慣れない家事をしていたから環境によるストレスだと思っていた。

一度妊娠をしているから、いくら気が廻らないハニでもそれが何なのかが判る。

もしかして・・・・・

ハニは吐き気が治まった時に、トイレに行き一つの小さな箱を取り出した。

入籍してスンジョと夫婦として生活し始めてから、直ぐに病院に行く事が出来ないからと思い、念のために半島に買い出しに行った時に買っておいた。

診療所のドアが開き、スンハがスンジョに「オンマが病気だから治して」と話しているのが聞こえた。

スンハからハニの事を聞いてトイレまで走って来ると、ドアに鍵がかかっていた。

「ハニ・・・ハニ大丈夫か?鍵を開けてくれ・・・」

トイレのドアを開けて、心配そうな顔をしているスンジョにそれを見せた。

スンジョはその瞬間、今までに見た事のないほどの笑顔でハニを抱きしめた。

「ハニ・・・おめでとう。そして、ありがとう。」

「スンジョ君・・・・」

スンジョはハニに新しい命が宿ったことを知り、スンハが出来た時に感じることがなかった幸せに涙が滲んだ。

「スンジョ君・・産んでもいい?」

「当たり前だろう。オレとハニの子供で、スンハの兄弟だ。」

スンジョの顔を見上げると、ハニのオデコにポトンと滴が落ちた。

「スンジョ君・・・・泣いているの?」

「あぁ、男なのにみっともなく涙が・・・・嬉しくて・・・・・スンハが出来た時は何も知らなくて、ハニが一人で苦しんでいたんだと思ったら、オレが自分の本当の気持ちを表さなくてバカな事をしたと思って後悔している。でも、これからはハニとスンハのように嬉しい時は嬉しい、悲しい時は悲しい・・・そうやって行くことにしたんだ。」

春になってスンジョとハニに可愛い天使が宿り、スンジョが自分の思いを素直に表せ全てが明るい未来に歩き出した。

島の診療所では、6年ぶりにギミとスエがお産の準備をしていた。

6年前のスンハが産まれる時とは違い、診療所の中に聞こえるハニの陣痛を堪える声は心なしか辛くは聞こえなかった。

スンハは大人しくオンドルの効いた部屋に柔らかな布団を敷いて、兄妹の誕生を今か今かと待ちわびていた。

スンハが産まれる時と違い、今は愛する夫スンジョがハニの手をしっかりと握り、額に滲む汗を拭いて見守っていた。

「ペク先生、頭が出て来ました。こっちに廻ってください。」

「ハニ頑張れ・・・・・・あと少しだ。頑張れハニ・・・・・・・・・」

大きな波が押し寄せた様に、診療所に響く大きな産声が聞こえた。

「産まれた・・・・産まれたぞ。」

スンハの時は、ハニのお腹に宿った事も産まれた事も知らなかった。

二人目の子供は、スンジョ自ら出産に立ち会い、ギミの補助でわが子の誕生する瞬間をハニと一緒に過ごした。

産まれたばかりの新たな命の元気な産声を聞き、スンジョはハニのオデコに労いの口付けをした。

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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