あなたに逢いたくて 92
スンジョとハニの二人目の子供は元気な男の子だった。
出産の疲れはあるものの、スンハを産むときと違って妊娠が判った時からスンジョがずっとハニの体調を気遣い、診察が無い時はハニを休ませていた。
ツワリはあるものの、妊娠を隠したりしないからなのか、スンハの時よりはあまりひどくなかった。
グミもスチャンも、毎日のように体調を心配する電話を掛けて来てくれた。
「オンマァ~」
スンハの話し方が日々グミに似て来ると、スンジョがよく言っていた。
明るくて屈託のない笑顔は、自分に似ていると思っていたが、話し方だけではなくその笑顔もグミとよく似ていた。
「スンハ・・・静かにしてね。今、赤ちゃんが眠ったばかりなの。」
「はぁ~い・・・・・・」
ペロッと舌を出して、笑う顔は若い時のハニ似ているとスンジョは言っていた。
「あのね・・・アッパが、赤ちゃんの名前を付けたって・・・」
「そうなの?」
「うん・・でもスンハには教えてくれなかった・・・」
悲しそうな顔をしながら、小さな弟の頬をそっと触るとその柔らかさに驚いて手を離した。
「スンハの名前を付けた時、アッパに教えてもらえなかったから、オンマにも教えないんだって。」
今朝からスンジョは診療所にいなかった。
この島の管轄の役所に出生届を出すために、ハニがいつも言っている買い出しを兼ねて半島に出かけたのだった。
「アッパは子供ね・・・・」
「アッパが子供?」
「スンハが産まれた時に、アッパが傍にいる事が出来なかったし、スンハの名前を付けたのがオンマだから、ちょっと拗ねて意地悪をしているのよ。だから子供って言ったのよ。」
「本当だ、拗ねて意地悪をするのは子供だよね。子供のスンハでも拗ねて意地悪をしないのに。」
こんな風に子供と笑って話をして、産まれたばかりの子供をこんなに幸せな思いで抱く日が来るとは思わなかった。
スンジョ君が、こんな風に拗ねて意地悪をして私に生れた息子の名前を教えてくれない事が、おかしくて涙が出そう・・・・
「オンマ?どうして泣いているの?」
「どうしてかな?」
「悲しいの?」
「悲しくないし、どこも痛くないけど・・・・・涙が出るの・・・・」
幸せすぎて涙が出て来る。
スンジョ君がヘラと別れたと聞いた時に、スンジョ君の前に出て行かなかったことを後悔したことは一度も無かった。
スンハを産むことをスンジョ君にも、ペク家の人にも言わないで生きて行くことを選んだのに、みんなその事を誰も責めたりしなかった。
むしろ、お母さんは私の気持ちを察してスンジョ君にスンハの事を言わないでくれていた。
頑なな私心に無理やり入り込んだりしないで、時が流れて自然にスンジョ君を受け入れる事が出来る時まで待っていてくれた。
ペク家の人たちにはどんなにお礼を言っても足りないくらいに感謝の気持ちで一杯。
「あっ!アッパが帰って来た・・・・」
診療所のドアが開いた音が聞こえると、スンハは勢いよく椅子から降りて、スンジョを迎えに診療所の入り口まで走って行った。
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