思わぬ同居人 71
週に一度は家族でそろって食事をするという約束を忘れるなんて、私はそんな冷たい息子に育てた覚えがない
そんな親の顔を見て見たい
そう言って泣くお袋にオレは言いたかった。
冷たい息子に育てた親は、お袋だろ?
親父が成人したオレと食後に酒を飲みたいと言って、おじさんを誘い飲み始めた時にお袋も仲間に入って来た。
ハニは自分も一緒に飲みたいと言ったが、以前におじさんの店でマッコリを飲んでぶっ倒れたことがあるからジュースにしろと止められていた。
酒癖が悪いのはハニだけだと思っていたら、日ごろオレに小言を言う機会が減ったからなのか、この時とばかりにお袋がオレに言いたい放題言っていた。
「おばさん、スンジョ君は本当は優しい人ですよ。今日も・・・・・」
ハニがオレを庇うように言えば言うほど、お袋はオレとハニをくっつけようとしてくる。
「お兄ちゃん!ごらんなさい、ハニちゃんを・・・実の母親が、冷たい息子に困っているのに、あなたを優しいって・・・こぉ~んないい女の子は他にはいないわよ。」
だからって、オレの恋愛にまで口を挟むなよ。
と言いたいが、言ってしまえばまたややこしくなりそうな酔っぱらったお袋の珍しい姿だ。
かと言って、何か別のことでも言おうものなら、さらに突っ込みを入れられそうだった。
「ママァ、どうしたんだ?そんな風に酔うなんて初めてだろう。」
「だってね・・・お隣のクォンさんの奥様が、お宅の息子さんと同居されているお嬢さんとはいつご結婚をなさるの?最近息子さんの姿が見えないから、軍隊にでも入られたの?気を付けないと、同居されているお嬢さんに他の方が出来たら、息子さんとの結婚に差し障りが・・・・って・・・最近ハニちゃんもどなたかとお付き合いを始めたとか・・・」
ギテ先輩の事を言っているのだろう。
時々、家まで送ってきているとウンジョから聞いていた。
全くオレとタイプの違うギテ先輩は、構内でも有名なくらいにハニを口説き通していると言われていた。
先輩がハニのことを真剣に思っていてくれているのなら、オレとハニが付き合わなくても構わないと思うが、お袋がハニを溺愛しているからややこしいのだろう。
「おばさん、お付き合いをしている訳じゃないです。留学から帰って来て、まだ慣れていないから最近の事を教えているだけなんですよ。」
ハニが余計な事を言わなくてよかった。
今日の出来事をお袋に言ったら、ハニ並のお袋の妄想劇が始まりかねない。
親父に明日学校があるから、ハニと先に二階に上がって行くようにと言われなければ、延々とお袋お面倒な小言と付き合う事になっていた。
スンジョは風呂から上がって部屋に行こうとした時、バルコニーで外を見ているハニを見つけた。
「風呂が空いたぞ。」
「ありがとう・・・・」
返事をしても、そこの場所から離れないハニは、何かを考えているみたいだった。
スンジョはタオルで頭を拭きながら、ハニの横に並んで外を見た。
開け放たれているベランダの窓から聞こえる、大人たちの話し声。
近所に迷惑になるほどでもないが、耳を澄ませば会話がかろうじて聞こえて来る。
「おばさんね、久しぶりにお酒を飲んだの。いつもは、おじさんとパパが飲んでいても、おつまみを持って来て黙って二人の話を聞いていた。スンジョ君が帰って来て嬉しいみたいだね。」
「そうか?」
確かにここの所バイトの関係もあり帰らなかったけど、お袋のそんな様子を気にもしていない。 「いつもここに立って聞いている訳じゃないけど、たまには帰って来てあげて。おじさんも楽しそうだったし。」
「早く風呂に入って寝ろよ。」
他人のお前に言われなくたって判っているよ。
と、以前なら気が付いていなくてもそう言っていた。
空気が読めないバカなハニだと思っていたのに、オレの両親のそんな姿を見ていたんだ。
考えて見れば、ハニは早くに母親を亡くして、両親のそんな姿を見ていない。
おじさんにしても、仕事で帰宅が遅いからハニは待たずに寝ていたのだろう。
知らず知らず、スンジョの家族の中に溶け込んで来た、ハニの心優しい行動や言葉に、スンジョはまだ自分がそれを素直に聞けるようになった理由には気が付いていなかった。
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