思わぬ同居人 72
親父にもお袋にも相談もしないで決めた医学部への転入。
いつまでも隠せるとは思ってはいなかったが、意外と早く親父に知られることになった。
「もしもし?」
<今日、家に来るように。>
数日前に行ったばかりで、親父から電話が掛って来た。
いつもと違う話し方に、こちらの様子を聞くことも無く、用事の有無を聞くことも無く、一方的に来るように言う親父は初めてだった。
「スンジョ、今日飲みに行かないか?」
「悪い、家に用があるから。」
医学部に二年遅れで入っても、特に違和感なくオレを週末になると飲みに誘ってくれる仲間がいた。
バイト先のファミレスに、今日は急用が出来て遅れて行くからと連絡を入れて、急いで家に帰る事にした。
親父の様子からなんとなく、医学部に移ったのを知られたと思ったし、いつも自分の判断に任せてくれるから話せば大丈夫だと思っていた。
親父もお袋もいつもオレを長男として頼りにしていたのだから、会社を継いでほしいのだと判っていたはずだ。
休日は家族と一緒に過ごしてくれていた親父は、その代わりに平日は遅い時間まで会社に残って仕事をしていた。
急な電話から数時間後には、親父は真っ白な顔をして病院で治療を受けていた。
酸素吸入をしている親父の手をしっかりと握って、涙を流しているお袋の後姿が小さくて、オレが守らないといけないと思った。
「少し休んだら?」
「スンジョ・・・・・」
いつもきちんと化粧をして髪を乱した事のないお袋の、細い肩に落ちている後れ毛にオレは責任を感じた。
「お袋まで倒れたら、留守番をしているウンジョが困るだろう。」
「大丈夫よ、スンジョこそ明日学校でしょ?折角行きたい医学部に移ったのだから、遅れている分を追いつく様に勉強をしなさい。」
「でも、オレは・・・・・」
「パパが良くなってから後のことは話す事にして・・・・それに、ハニちゃんも心配しているから、パパが落ち着いたからと言ってあげて。」
お袋もきっとオレがあんな事を言わなければ、こんな事にならなかったと思っていると思う。
親父の会社には興味がないんだ
言ってはいけなかった。
身体に無理をしてまでしていた仕事だ。
言い方が他にもあったのに、オレらしくなく考えずに言葉に出してしまわなければこんな事にならなかったかもしれない。
「ただいま・・・・」
リビングのソファーで転寝をしていたハニは、オレが帰って来るとビックリとして立ち上がった。
「スンジョ君・・・お帰り。おじさんは?」
「今は落ち着いている。ウンジョ・・・おいウンジョ・・・部屋に行くぞ。」
深夜過ぎているのだから、小学生のウンジョが起きれないくらいに眠りが深いのも当たり前だ。
スンジョは、眠っているウンジョを抱き上げて、二階に上がる階段に足を掛けた。
「明日、大学を休んで親父の会社に行くから。」
ハニにそうスンジョは話した。
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