思わぬ同居人 73 

初めて訪れた親父の会社。 

仕事を一切家に持ち返らない親父だったから、どんな雰囲気の所で仕事をしているのか、今どんな仕事をしているのか聞いた事も無かった。 

事前に会社に連絡を入れておくべきだろうとは思ったが、いきなり社長室の親父の机に行くよりも、秘書兼室長のコンさんに連絡を入れた。

 取り敢えず親父の状況だけを知ってもらおうと、会社の会議室で会う事にした。


 「開発室のコン室長にアポを取っていたスンジョですが・・・・」 

「コン室長ですね、少々お待ちください。」

 受付にいる女性は、オレがペク・スチャンの息子だとは気が付かないのだろう。 

「コン室長、スンジョさんと言う若い男性がいらっしゃいました。ご指示されている会議室にお通ししてもよろしですか?はい・・・判りました。」 

別にあえて社長の息子と言う事も無いと思い、受付係が内線通話を終わると立ち上がってエレベーターホールに行き、上階に上がるボタンを押した。


「7階の第三会議室でお待ちくださるよう、コンが申しておりました。どうぞ・・・・・」

 開いたドアが閉まらない様に、手を添えてオレが乗るのを待ってくれていた。 

あれ程親父に興味がないと言った会社に、こんな状況で来るとは思いもよらなかったが、この社屋や受付係の教育、いくつもある部署や子会社の仕事の振り分けや分担は、オレやウンジョがいずれこの会社を引き継ぐときの為に、統括していたのだろう。

 一階のエントラスからエレベータや各階が見渡せるように作られた造りを見て、この会社でオレと一緒に仕事をすることを考えていたのかもしれない。 


「どうぞ、こちらでお待ちください。」 

通された第三会議室は、会議室としては小さめで少人数での対談に使う部屋だろう。

 壁に掛けられた社訓は、おじいさんの時代から受け継がれた言葉。 


≪笑顔でいれば、制作能力は上がる。余裕のある制作時間は、品質向上と繋がる。笑顔であいさつ、笑顔でお礼。自分の家族の為、人の家族のために誠実であれ≫


あたり前のようで難しい社訓と、ハニの育ち方は通じているものがある。

 ハニが変わっているとかいうのではなく、オレの考えが間違っている事にようやく気が付いて来たような気がする。  


「お待たせしました。どうぞおかけください。」 

初めて対面する親父の会社のスタッフ。 

「申し訳ありません。受付係はスンジョさんが社長のご子息と知らず失礼な態度を取ったようで、注意しておきました。」

 「いえ・・・・」

 「社長の具合は如何ですか?社員にはまだ何も伝えていません。開発中のゲームに影響があっては、クリスマス商戦に遅れを取りますから。」 

何を先に話していいのか、どうして欲しいのかと誰かに聞いてみれば簡単かもしれないが、昨日決心をした時から、オレはあまりにも今まで勉強ばかりで世間知らずだと思えた。 


「父の容態は今のところ安定はしていますが、まだ予断は出来ません。父には了解を得ていませんが、明日から父の代理として出社することにしました。開発室の人たちにだけ先に伝えておいてください。」

 諦めよう、親父とお袋はオレが会社を継ぐと言えば、きっと喜ぶはずだ。 

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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