思わぬ同居人 76
まだ誰も従業員が出社していない会社の駐車場に車を停めて降りると、今日からここでスチャンが快復して会社に復帰するまで、自分がまとめて行かなければいけない場所だと思うと、ずっしりと肩に重みがかかるようだった。
前日に来た時に、社長の駐車スペースからすぐ近くにあるエレベータから最上階にある大会議室まで上がった。
行き成り開発室に行っては、どこの学生が遊びに来たかと思われかねない。
室長には大会議室にいるからと、メールを入れると直ぐに返信が来た。
今、家を出た所です。あと30分ほどで到着します。
室長を急かした様な気がしたが、親父から聞いた最上階の大会議室から見る外の景色は、見晴らしが良くて疲れが取れると言っていた。
小さい頃に数回来たことがあるが、ウンジョが生れてからは殆ど来る事が無かった。
あの頃はまだ今のように大きくはなかったが、開発室や広報室に行くスチャンに付いて回り、先々代・先代の社長時代からの玩具が並び、あの時はハンダイで作られた玩具やゲームを一つの部屋に纏めて博物館か記念館のようにしたいと言っていた。
日本の玩具メーカーの下請けをしていた先々代の曾おじいさんは、工場と言うよりトタンで仕切られた隙間風の入る小屋で休む暇なくひとりで仕事をしていた。
家族を養うために必死に働き、トタンの工場からプレハブの工場にした。
先代のおじいさんの頃には、プレハブの工場でも今のこの土地に社屋を建てて従業員の数も工場と合わせて50人以上になっていた。
親父が会社に入り、まだ開発室の平社員の時に、ゲームソフトの開発を始めてお袋と結婚した頃もまだ今ほど大きくはなかったと聞いた。
シーズン制のゲームソフトが、爆発的にヒットして今のこの規模まで成長した。
お袋の実家の援助もあったからだとは言っていたが、親父はコツコツと努力をするタイプで、オレとは違いどちらかと言うとウンジョと似ている努力型の人だ。
コンコン・・・
「コン・サンです。」
「どうぞ・・・・」
ドアが開いたと一緒に、コーヒーの香りがした。
「随分と早い出社ですね。」
「初出勤ですから。」
「美味しくはないコーヒーですが、飲まれませんか?」
紙コップを近くのテーブルの上に置いて、スンジョが何か言うのを待っているコンに、椅子に腰かけるようにと指した。
「昨日は、社長のお見舞いに行かれたそうですが、いかがですか?」
「まだ安静は取れませんが、幾分落ち着いているようです。意識が戻ってから検査をして、治療計画を立ててくれるそうですが、今日あたり意識が戻ると思います。」
「左様で・・・・社員の方には、車内放送で知らせると言う形で準備をしています。」
「ありがとうございます。」
親父が倒れた事は外部には内密だが、このまま隠して行くわけにはいかない。
「朝礼は、9時からですが、社長代理のスンジョさんは9時過ぎに放送室にご案内いたします。」
いつかオレが会社を継ぐことを考えて、親父はいろいろな部署をオレに合わせて編成し直してくれていた。
そんな事も知らないで、オレは自分のわがままを通そうとしていた。
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