思わぬ同居人 79
手術になったことで、不安がっているお袋を安心するまで傍にいたら、いつの間にか時間が8時になっていた。
携帯が使用できるスペースで、ハニの携帯に電話を入れると、ハニではなくウンジョが電話に出た。
「どうかしたのか?」
<ハニが手が離せないって・・・今日は、クリームコロッケだったけど、油の中で破裂して作り直ししてる。今度は煮物とチゲみたいだよ。お兄ちゃん、まだ会社にいるの?>
「パパの見舞いに来ていて遅くなった。今から帰るけど、先に食べていていいから。」
電話を切り時間外出入り口に向かって歩いている途中に、時間外処置室の前を通ると、ほんの少し開いたドアから処置室の中の様子が見えた。
何年か後にあの中で仕事をしていたかった。
諦めようと思っても諦めきれないが、親父が倒れた今は長男のオレが後継者としていかなければならない。
自分があんな態度を取らなければ、親父も倒れなかったかもしれないと思う。
もう少し時間を掛けて話していたら。
それよりも、医学部に移りたいと思った時に相談していたら。
ウンジョがもう少し大きかったら、ウンジョの考えも聞けたのに。
思えば切りがない。
まだ昼間の熱さが残っている道を歩いて、車を駐車してある場所まで歩きながら、どうしたらいいのか考えてもまとまらない。
運転に集中をしていなければいけないのに、後悔と言う言葉が自分の中にあるとは思いもよらなかった。
「ほら、スンジョ君が帰って来たじゃない。お帰り!」
先を争うようにスンジョを迎えに出たハニとウンジョは、スンジョの迷いなど知らない。
「カバンを持つわ・・・上着も・・・」
「いいよ。」
「お風呂を先にする?それとも食事が先?」
「新婚ごっこでもしているつもりか?」
「おじさんが入院している大変な時にそんな・・・不謹慎な・・・」
ウンジョとハニのこんな掛け合いのような会話に、疲れた身体と後悔だらけの心が癒される。
「食事を先にするよ・・・・着替えて来る。」
ピョンピョンと跳びながら、出来た食事をテーブルに並べようとダイニングに戻るハニの後姿を見ながら、ハニがいてくれなければこんな気持ちを切り替えて仕事に行く事も出来ないだろう。
「今日はね、味噌チゲと里芋の煮物とひよこ豆のサラダよ。」
少々大蒜が多くて味の濃いチゲに、噛むと硬いひよこ豆のサラダ。
里芋は生煮えで、噛むとガリッと言う音がした。
お腹を壊して死ぬと言うウンジョに、ハニが一生懸命に作った食事に文句を言うなと言うオレに驚いたのは、ウンジョではなくオレだ。
「チゲも辛くて僕たちを殺す気?」
どれだけ味噌を入れたのか知りたいくらいに、そのまま味噌のようなチゲ。
一生懸命にオレは今まで何をやっただろうか?
親に信頼されているのをいいことに、自分の思うままに生きて来た。
自分の意思でテハン大に行かないで、パランに行く事になっても親父もお袋も何も言わなかった。
自分の意思を通していいことはないことくらいわかっている。
諦めよう・・・・医師になる事を・・・・
ふわりと背中が温かくなり、甘い香りがした。
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