思わぬ同居人 80
「おじさんの具合がよくないの?」
「ハニ・・・・」
「スンジョ君の背中が小さいの・・・・広いスンジョ君の背中が小さくて・・・・私でよかったら話して・・・」
ハニの髪から漂う甘いシャンプーの香り。
白くて小さな手がオレの目の前にある。
触れようと思えばすぐ触れる事が出来る所にある。
少し戸惑いはあったが、その手がオレに決心をさせてくれた。
「親父、思った以上に良くないんだ。」
静かなリビングに聞こえる二人の静かな会話。
「難しい手術じゃないけど、今の状態を改善するために手術をすることになった。」
ハニはスンジョが話す言葉に、何かを言うこともなくただ黙って聞いていた。
それが有りがたくて、スンジョは思っていた事を口にすることが出来た。
「オレ、医学部を辞めるよ・・・辞めて親父の会社で仕事をする。」
「辞めるって・・・せっかく見つけた夢じゃない・・・」
「オレの見つけた夢はまだ日の浅い夢だ。親父の会社を継げばそれでみんなが喜ぶのならそれでいい。」 「スンジョ君、だからって医学部を辞めなくても・・・・・」
何も言えない。
本当は、医学部を辞めたくないと言えない。
「ハニが、オレに夢をせっかく見つけてくれたのに悪い・・・・・一時でも、やりがいがあると思える勉強をすることが出来て良かったよ。」
辞める選択肢しかオレにはなかった。
親父が望んだことを選べば、親父も喜ぶだろうし、笑顔になるし心臓も良くなる。
親父が家に戻ってくれば、お袋もきっと安心していられる。
「辞めないで・・・・辞めなくたっていいじゃない?せめて休学を・・・・・」
休学と言う選択肢はなかった。
ハニはオレが迷った時に、何も考えずにヒントを出してくれる。
何も考えない事が、嫌いだった事もあるがもしかしたらハニは空気が読めないハニではなく、相手の迷っていることを見つけ出してくれるヤツなのかもしれない。
「スンジョ君は優し過ぎるから悩むんだよね?」
「オレが優しい?」
「優しいから、せっかく見つけた夢を諦めて、やりたくもないおじさんの会社での仕事でしょ?やりたくもないおじさんの仕事を、辛そうな顔でしていてもおじさんの方がもっと辛いよ。私ね、スンジョ君は勉強熱心だから医者になった方がいいと思うの。治らない病気や難しい病気を治してくれることが出来るのはスンジョ君だから。沢山の資料を全部頭に入れて、難しい治らない病気の人をどんな治療なら治るのかを全部調べるの。スンジョ君を待っている患者さんは沢山いるのだから、休学してでもいいからお医者様になって欲しいな。」
ハニの言葉はオレの辛い心を優しく温めるように沁み込んで来た。
コイツは、本当は人を幸せにする天才なのかもしれない。
「一番治して欲しい患者はいるだろうな・・・・」
「?」
「お前だよ・・・お前のその物事を簡単に考えるのを治さないとな・・・」
「治さないといけないのはスンジョ君だよ。心配しているのにその意地悪な言い方・・・・殆ど病的ね。」
ありがとうよ。
親父がよくなったら、ちゃんと話し合ってみるよ。
それまでは休学にしておくから。
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