思わぬ同居人 89
ハニに何かあったと言う事を、オレは何も知らなかった。
知ろうとしなかったのもあるが、会社に慣れたとはいえ、帰宅時間が毎日深夜近い。
新作ゲームをプレゼンが近いのに、改善点を見つけたことが社員にとって一番厄介な事だろう。
今まで会社に関わって来ないし、ゲームを作るために何か協力したことも無ければ、どちらかと言うとゲームは好きではなかったから、余計に違う観点から発想をすることが出来たのだろう。
気持ちを切り替えて、ベテランの社員たちがオレの考えに賛同してくれた。
反発があると思っていたのに、意外な反応だった。
ただゲームを楽しむだけじゃなく、ストーリーを楽しむ物にする考えは、ゲームが苦手な人間だから思いつく事だったに違いない。
「ゲーム好きな人ならきっと、新しいゲームにどんな技が必要かと考えると思います。ただ複雑な事やグラフィック映像技術を競い合うだけの映像ゲームにするよりも、競う事よりもゲームをしない人たちにも映像が楽しめるようにして行ってはどうだろうか?」
何も反応が無かった時は、凝り固まった考えを解き解すことの難しさを知った。
それはまるでオレの固い殻を破ろうとしてくれたハニの気持ちを、少しでも理解していなかったことを気が付かせてくれた。
「皆さんのグラフィック映像技術やコンピューターサウンドは、この国ではトップクラスだと思っています。そのグラフィック映像とコンピューターサウンドを使って、見るゲームを作って新しいゲーム時代を作りませんか?」
どう言っても無反応で、ベテラン社員たちをどう説得しようかと思っていた時、グラフィック映像担当のスタッフが声を掛けた。
「やってみないか?みんなここまで来るまでに、社長に随分と我儘を聞いて貰った。それぞれ得意分野で思う存分技術を披露するのではなく、融合したゲームを社長代理と一緒に作ってみないか?」
その一言で、他の社員たちは賛同の拍手をし、スンジョと握手を交わした。
こんな風に、人と協力してやって行くことも人生初めての事で、前にハニが言っていた清々しい気分とはこういう事だと知った。
それからは、みんな意見をどんどんと出して、新しい発想が沢山と出て来た。
発言を躊躇していた人も、自分の持っている物を開花させるチャンスを貰え、またベテラン社員もそれに刺激されて長年培ってきた知識を若手に伝えていた。
親父が作った会社は、ただ大きくしただけでなく、自分の家族と同じようにお互いが助け合っていくように社員を育てていた。
そんな立派な親父の子供なのに、オレは・・オレは・・・お互いを助け合うどころか、いつも自分勝手にして来ていた事に気が付いた。
0コメント