思わぬ同居人 90
『退院間近だから荷物を取りに来て欲しい』と、お袋から電話が掛り何日かぶりに病院に向かった。
諦めたとはいえ、病院に行き診察室や廊下を歩いている医師を見ると、諦めきれないものがあった。
「親父・・・・お袋は?」
「おお・・・スンジョ・・・ママは、退院後の生活に付いての話を聞きに行っているよ。」
持ち帰っていい物がカバンに入れられて、いくつか病室の隅に置かれていた。
「持って行くよ・・・」
「スンジョ・・会社の方を頑張っているそうだな。コン室長が喜んでいたよ。」
「すみません、お父さんが一生懸命に大きくした会社を、自分勝手に色々と変えて・・・・」
「いや、構わないよ。パパの古い考えよりも、スンジョの若い考えの方が新しい何かを引き出すことが出来たのだから。」
「それと、融資額の方ですが・・ユン会長が、こちらの希望よりもかなり多く援助してくださることになりました。」
スチャンの顔がスンジョの今の言葉で暗くなった。
「その事だが・・・・ユン会長の孫娘さんとは・・・」
「進んでいます。お互い、性格も似ているので、見合いをして良かったと思います。」
「本当にいいのか?」
「はい。」
スチャンが言おうとしていることは、スンジョにはよく判っていた。
キッパリと答えて、自分の気持ちが堅い事を伝えたいが、親にはそれが見破られてしまう事も判っていた。
「パパは息子を金で売ったようで・・・・辛いよ・・・」
「会社関係での結婚はよくある事で普通の事です。気にしないでください。オレは何とも思っていないし、彼女とは前学年まで同じ学部でしたし、テニス部でも一緒なので、かえって全く知らない人よりも良かったと思います。」
スチャンと見合いの話を避けたくて、スンジョはそのままカバンを持って病院を後にした。
真っ直ぐ家に帰るつもりでいたら、ヘラからの電話で会いたいと言って来た。
「私ね、今まで付き合った人がいないし、誰かと買い物にも行かなかったじゃない?欲しい物があれば、電話一つで外商の人が来てくれるし。だから、こうして好きな人と一緒に買い物をしたかったの。」
君だけじゃなく、オレも誰かの買い物に付き合ったことはなかったし、着る物にしても殆どお袋が買って来たものを着ているだけだ。
「このまま帰るのもまだ早いし、どこかで食事をして行かない?」
「そうだな・・・君の行きたい所でいいよ。」
「そう?美味しいククスのお店が近くにあるの、そこに一度行ってみたいと思っていたけどいいかしら?」
「いいよ。」
ククスと聞いた時に、ここから近い所におじさんの店があるが、まさかそこではないだろうと思った。
ククスの店などいくつもあるのだから。
「危ない!!」
ヘラがぶつかる少し前に、向こうから歩いてくるハニに気が付いた。
俯いて歩いているハニと、気が付かれないようにそのまま通り過ぎればいいと思ったが、まるでこちらに引き寄せられるように、ハニとぶつかった。
「大丈夫?」
「すみません・・・・ぼぅっとしていて・・・・」
ヘラが手を差し伸べて起こそうとした時に、ハニが顔を上げた。
「まぁ・・・ハニじゃない・・」
ヘラと一緒にいる所を見られたくなかった。
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