思わぬ同居人 91
顔を上げてすぐにヘラとスンジョから逃れたいのか、俯いたまま散らばったカバンの中の物をハニは拾い始めた。
辛そうにしている姿を見ているスンジョも辛そうだが、そんな事など知らないヘラは、差し出した手に触れようとしないハニの手をグィッと掴んで立ち上がらせた。
「ねぇ、私たちこれから食事に行くのだけど、あなたも一緒に行かない?」
「えっ?」
「それとも何か用事でもあるのかしら?」
「別に・・・・・」
「私、よく場所が判らないのだけれど、ハニは知っているかしら・・・≪ソ・パルボクククス≫と言うお店。」
まさかそこに行くとは思わなかった。
ヘラが、行きたい店があると言っていたが、おじさんの店だとは気が付かなかった。
この道をまっすぐに進んで100メートル先を左折した所の商店街におじさんの店がある。
断れ・・・そんな辛い顔をするのなら、断れよ・・・・オレもおじさんの店に行くのなら他に行こうと言うから。
「知ってる・・・・付いて来て・・・・・」
自分が傷ついていても、ハニはスンジョとヘラの為に父の店を案内する事にした。
ハニの後ろをヘラは何も知らずに付いて行き、スンジョはハニの悲しみが滲み出ている背中を見ていた。
きっとハニは泣きたいのだろう。
その小さな背中を見るだけで、ハニが今何を考えているのか伝わって来る。
オレの顔を見ると笑わなくなったハニ。
あの笑顔が好きだったのにオレが笑顔を無くしてしまった。
怒ったり泣いたりする、コロコロと変わるあの表情を見ていると楽しかったのに、オレはそれを消してしまった。
「ここ・・・ここが≪ソ・パルボクククス≫よ・・・・・」
倒れ込むようにしてハニは店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ~・・・ハニじゃないか・・それにスンジョ君と・・・そちらのお嬢さんは?」
「ここハニのお父さんの店なの?」
「何だ、ペク・スンジョと・・・シェフ、ペク・スンジョの婚約者ですよ。」
「こ・・・婚約者・・・・・」
おじさんの驚いた顔に、オレは頭を下げるしかなかった。
おじさんはオレが見合いをした事も知らないし、ハニが何も話をしていない事も判っていた。
おじさんはハニがオレの事を好きだと知っているから、ハニは言わなかったのだろう。
前に家を出て行った時も、オレに片想いをしているハニが不憫だと思って家を出たのだから。
あの時のオレは、ハニに全く気のない振りをしていたから。
でも、ヘラと見合いをしてからは気のない振りをすることが辛くなっていた。
ハニがオレを見ている。
目を合わせなくてもその視線が、温かくて心地よく感じる。
スンジョのその想いを遮るように、ヘラの冷たい言葉がハニの温かい視線を止めた。
「そんなにスンジョを穴が開くほど見ないでよ。彼が食べにくそうにしているでしょ・・・・」
ヘラが、ニッコリと冷たく微笑んで、スンジョの口に麺を食べさせようと近くに持っていた。
それを無視することも出来ず口を開けるが、麺を噛んでも喉を通らず飲み込むようにして食べた。
この日の夜にギドンが帰って来て、ハニとこれからの事を話していた事をスンジョは知らなかった。
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