思わぬ同居人 93
案の定、お袋はヘラを拒絶している態度をあからさまに表している。
「お母様、お手伝いします。」
「結構よ。キッチンに他人を入れるのは好きじゃないの・・・ハニちゃん、手伝ってね。」
「おばさん・・・・・」
「いいのよ。彼女はユン会長のお孫さんでしょ?うちの娘でも何でもないのだから。ハニちゃんは、私がスンジョの嫁にと決めた女の子なんだから、手伝ってね。」
ハニにしても、お袋のあの態度にはどうしていいのか判らないのだろう。
それに、いつもハニが家の事を手伝っているのだから、ヘラがキッチンに立つことに抵抗はあるはずだ。
「パパ、これはハニちゃんが作ったのよ。」
「おお・・・・ハニちゃんが作ったのか・・・・おいしそうだな。」
「今日だけは特別に、ハニちゃんがパパの好きな甘い玉子焼きを作ってくれたの。」
ハニが作った甘い玉子焼きを、スチャンは一切れ口に入れた。
「ハニちゃんの作った玉子焼きは美味いよ。流石ギドンの娘なだけあるよ。」
ヘラを無視している訳じゃないが、親父の辛い気持ちも判る。
プライベートでのハニは親友の娘で、ヘラは一番の融資元のオリエントコーポレーションのユン会長の孫娘。
ヘラとさりげない会話をしながら、お袋が話すハニの事にも応えないといけない。
そんな息が詰まる食事の席で、誰が楽しい気持ちでいられるのだろう。
それを招いたのが自分なのだから、キッパリとハニを切り捨てるか、お袋の思うとおりにヘラではなくハニを選ぶのか。
そんな単純な理由で、相手を選ぶことは今のオレには出来ない。
親父の会社を立て直すなんて大それたことを、まだ会社では実績を持っていないが、開発中のゲームの為にユン会長の機嫌を損なわせてはいけない。
心を売って得る幸せで、人が幸せになるのならそれでいい。
この道を選んだとしても、すでに決まっているレールの上をただ歩いているだけなのだから。
「今日は楽しかったわ。」
「いや、君に悪い事をしたよ。お袋はハニに対しては特別な思いがあるから。」
「気にしていないわ。時間を掛けてお母様に気に入ってもらえるようになると思うから。」
時間を掛けて気に入ってもらえるように・・・・か・・・・
ハニならきっと、気に入ってもらえるように努力をすると言うのだろうな。
「送れなくて悪い・・」
「いいわよ。お父様とお母様によろしく伝えてね。」
手を振って、ヘラは車に乗りペク家の前にから離れて行った。
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