思わぬ同居人 95
いつもなら部屋で本を読んでいても聞こえて来るお袋の声が、今日は聞こえてこなかった。
少し前のオレが見合いをする前は、お袋とハニが楽しく笑ったり話したりしている声も聞こえて来た。
親父が倒れて、お袋が付き添いの為に病院に寝泊まりしていた頃から家の中の様子が変わって来たのか、それともオレがそう思っているだけなのか判らないが、家族がバラバラになっているのだと思った。
コンコン・・・コンコン・・
親父でもない、お袋でもない。
勿論ハニやウンジョでもないノックの音に、無視しようと思っていたが、おじさんだと思ったらそうは行かなかった。
「スンジョ君・・・・夜食を持って来たけど、食べないか?」
食べたくないと言うか、食べる気がしないが、おじさんが珍しく夜食を持って来たのには理由があるのだろうと思った。
ドアを開けるとギドンが、キッチンでスンジョの夜食用に作った物をトレイに乗せて持って来た。
「おじさん、食事は終わっていないのですよね。オレは済んでいるのでおじさんが食べてください。」
「スンジョ君と話がしたくてな・・・・」
オレと向かい合って話したことはなかったし、夜食を持って来たと言うのが口実だとも判っていた。
いつもリビングにいるお袋がいなくて、家の中が妙な空気が漂っているのだから、詳しい事情が分からない人でも、いつもと違うと気が付くはずだ。
「どうぞ・・・・ウンジョは書斎でゲームをしているので、暫くはここには来ませんから。」
言いにくそうにしているおじさんの考えていることは判る気がする。
「おじさん、オレはハニの気持ちを受け入れる気持ちがありません。」 は
っきり言っていいものか迷ったが、有耶無耶にするよりはちゃんと自分の気持ちを伝えた方がいい事もある。
ギドンはスンジョのハッキリとハニを受け入れる気持ちがないと、判ってはいてもさすがにその言葉を直接聞くと辛そうな顔をしていた。
ギドンは仕事の関係で一緒にいる時間は少なくても、ハニを妻が亡くなってから一人でハニを育てて来た。
他人がどう言おうと、親でしか子供の性格や気持ちが判らない時もあるし、また逆に親でも判らない気持がある。
グミとスチャンが後者の方だった。
自分の気持ちをはっきりと言うようで言わないスンジョの本心を、実の親子であっても知らないのだから。
「判っていたよ。ハニも君がハニの事をどう思っているのか判っているはずだ。グミさんがハニの気持ちを知っているから、君がお見合いした女性を認めたくないのだと思う。待っていてくれないか?近いうちにワシがちゃんとするから。」
「おじさん・・・・」
「慣れない仕事で疲れているだろうから、胃もたれしない物を作ったから、食べても朝には空腹感もあるはずだ。無理をしない様に・・・・・・スチャンの為にも・・・・じゃ、お休み。」
「お休みなさい・・・」
ギドンの寂しそうな後姿が、自分の父親のスチャンとも似ているように見えた。
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