思わぬ同居人 100
「そんな事・・・・そんなことスンジョ君に答えなきゃいけない理由があるの?」
理由はない・・いやないわけでもないが、ハニに散々冷たい言葉を発して今更それを聞いてどうするつもりだ?
「お店が忙しくなって来たし、ジュングも腕を上げて来たから・・・・・それに、片想いに疲れたの。実らない恋はもう諦めたの。」
「お前は好きだと言われたら好きになるのか?」
「好きと言われて好きになったらいけないの?スンジョ君は私の事なんて眼中にないでしょ?」
「お前はオレ以外好きになれないんだ。そうだろ?」
「随分と自信があるのね!!そうよ!そうよ・・スンジョ君しか好きになれないわ・・でも・・・」
興奮状態のハニを抑えるのは、どうしたらいいのかオレには判らなかった。
判らないけどこうするしか方法はなかった。
スンジョは持っていた傘を離して、両手でハニの頬を包んだ。
ハニが逃げるとは思わなかった。
雨で濡れたハニの頬は冷たく、合わせた唇は冷たく。
それでも、心の中だけは熱く、伝わるのはお互いの気持ちだろうか。
もう自分の気持ちを誤魔化さない。
素直になって、自分の想いを伝えなければいけない。
でも、言葉にしてハニに言うにはまだオレは殻を割る事が出来ない。
「二回目・・・・」
「何が?」
「キス・・・」
「三回目だろ。」
「えっ?」
「もういいよ、数えなくても。」
キスの数なんて、もう数えなくてもいいよ。
オレがこの先何年も、ハニが数えられなくなるまでキスをしてあげるから。
この思わぬ同居人が、ずっとこの先もオレの同居人でいられるように次の行動に移そう。
「帰るぞ!」
スンジョは落ちている傘を拾うと、ハニの肩を抱き寄せて急ぎ足で家に向かって歩き出した。
無言で歩くスンジョに、ハニはスンジョが怒っているのだと思い、どうしていいのか判らなかった。
ただ黙って歩くだけでも、洋服越しに伝わる身体の温もりが温かく、秋の冷たい雨に冷えているはずの身体が火照っているような気がした。
玄関のドアを開けると、雨に濡れた二人が入って来たのをウンジョが気が付いた。
「お兄ちゃんが帰って来た。」
スチャンとグミとギドンが何か話して合っていたのか、雨に濡れた二人に驚いた顔をした。
兄に重大な事でもつたえるように走ってきたウンジョは、兄の手を掴んで嬉しそうに見上げた。
「お兄ちゃん、ハニとおじさんが家を出るんだって・・・・」
「まぁ!・・・二人共、ずぶ濡れじゃないの。すぐに着替えていらっしゃい。」
二階に上がりかけたハニの腕をギュッと引っ張って、細い指を自分の指と絡ませた。
そんな行動を今までしたことも無かったスンジョを、ビックリとして見開いた目でハニは見た。
「おじさん、ハニと結婚をさせてください。」
思いもよらないスンジョの言葉に、三人の大人たちばかりじゃなく、スンジョの横に立っているハニも驚いた。
あたり前と言えばあたり前だ。
今まで一度もハニに対して、好きだとかそう言った感情を見せた事が無いのだから。
スンジョ自身も自分でそんな言葉を発するとは思いもよらなかったが、その言葉を発した瞬間に胸の奥に挟まっていた硬い物が取れたように感じた。
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