思わぬ同居人 106
秋の朝は少し肌寒さを感じる。
眠っているウンジョを起こさない様に静かに部屋のドアを閉めて、廊下に出て階段の方に一歩歩いて、何かを思い出したようにスンジョは振り向いた。
ドアに掛けられているネームプレートを見て、一瞬迷ったが小さくノックをしてそっとドアを開けた。
相変らずのハニの寝相に、思わずクスッと笑ってしまった。
「結婚して同じベッドに寝るのは考えないといけないかな。あれから少しは寝相が良くなったと思ったけど・・・変わらないのは想いだけじゃなく寝相も変わらないのだな。」
掛け布団から出ている手足を入れて、肩が冷えないように隙間を潰して静かにハニの部屋から出た。
階段を降りて行くと、キッチンでグミが朝食の準備をし、スチャンとギドンが早朝のニュース番組を見ていた。
「おはようございます。」
「おはよう。」
「早いな、スンジョ。今日もユン会長の所に行くのか?」
スチャンもギドンも、もう何日もスンジョがユン会長の所に行くが会長があってくれない事を知っていた。
「今日は、試作品が出来ているから工場に行って、それからユン会長に会いに行こうかと・・・」
「悪いな、スンジョ君・・・ハニを選んだばかりに・・」
「おじさんもハニもこの事には関係ないです。これはオレが勝手にした事ですから。」
「そうだよ、ギドン。スンジョが、ちゃんと解決をするから。」
グミが朝食の用意が出来たことを告げると、三人は食卓に着いた。
「親父、今日は早く出社をするのか?」
「ぅん・・・得意先に用があって・・・」
まだ親父は無理が出来ない。
全ての仕事をオレがしていては、復帰に意欲を持っている親父の居場所がなくなる。
いずれ、オレが会社を継ぐにしても、まだこの年齢で経営に携わるには早すぎる。
会社の内情も知らないのに、社員を動かせるはずがない。
「じゃあ、行って来ます。」
「行ってらっしゃい。」
「ハニはまだ寝ているのか?婚約者が仕事に出掛けるのに、こんなんじゃ結婚したら妻として送り出しが出来るか・・・・」
「ギドンさん、ハニちゃんはちゃんとやれますわ。パパが入院している時に、家の事をきちんとやってくれていましたよ。」
ハニと結婚がしたいと言ってから、お袋は前ほどオレ達に構わなくなったが、ここまで静かだと嫌な気がするが、心配のしすぎだとハニが言っていた。
今のうちだ。
『結婚をしたら、早く孫が欲しい』
『孫は必ず女の子ね』
そう言う事が目に見えるようだ。
スンジョは工場で試作品を受け取ると、直ぐに試作品のソフトをゲーム本体に差し入れて、出来具合をチェックした。
初めて自分で作ったスチャンの会社の作品。
ゲームには興味がないが、こうして一つの物が試作品と言えど完成すると、何とも言えない達成感を感じた。
「社長代理?」
「思った通り以上の出来です。とても映像もよく、うちのスタッフは勿論、このゲームに携わったスタッフは喜ぶと思います。」
「ありがとうございます。うちの工場の者に、社長代理の言葉を伝えておきます。」
スンジョは試作品をカバンに入れると、急いでそれをある所に持って行くつもりだった。
今日は会ってもらうための口実があるのだから。
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