思わぬ同居人 109
ユン会長との会食には不安があった。
何が不安かと言うと、ランチではなくてディナーだと言う事。
念のためにハニにディナーの席に着いたことがあるかと聞いてみる事にした。
そうしないと、とんでもなく恥をかくのが目に見えていた。
結局、ユン会長との会食に行く時の洋服を新調したいと言うハニの買い物に付いて行くことになった。
別に新調する必要もないと思うが、女の気持ちはオレには判らない。
数ヶ月は、ハニの泣いた顔しか見ていなかったから、笑っている顔が見たいから、それだけの為に付いて来た。
しかし、たった一着のスーツを選ぶのに、どれだけの無駄な時間を使っているの事を判っているのか。
「もういい加減に決めろよ。」
「うん・・・・」
「これでいいだろ・・」
「だって・・」
「だって?だって何だよ。」
「ここのブランド、高いんだよ。スンジョ君は、正札を見て買わないでしょう。」
「見ないな。」
いつも決まった店に行って、店内に入るだけで何も言わなくても、店員が奥の部屋に連れて行ってくれて、好みのタイプを知っていてその中から数点を選んで、それをカードで買っていた。
ハニが何度も手にしているスーツは、きっと今まで見た中で一番気に入っている物だろう。
そのスーツをハニの手から取ると、顔なじみの店員に手渡した。
「これを・・・」
「いつもありがとうございます。」
カードを財布から出して、渡そうとするとハニがそれを止めた。
「スンジョ君、買ってもらえない・・・」
「どうして?」
「身分相応だし、そのカードの口座っておじさんだよね。私はおじさんやおばさんに、随分とお世話になっているから・・・・」
「オレがハニの喜ぶ顔が見たいだけだ・・・・それに・・・身分相応なら買わないといけないだろう。」
ニヤッと笑ったスンジョの顔を見て、また自分が何か間違った事を言った事に気が付いたが、何を間違っているのか気が付いていなかった。
数日前に会食の話をして、今朝服を新調したいからと家を出る時に、グミが二人をにやにやと笑って見ていたが、スンジョはそのグミの態度に妙な気分がした。
ハニとの結婚宣言をしてから、初めて二人で出掛けるのに、今までのグミならデートだと言って大騒ぎをしていたが、何も言わずいつも会社や学校に行く時の様にただ『行ってらっしゃい』とだけしか言わなかった。
それならそれでもいい。
グミにからかわれる事のない、ハニとの初めてのデートが気分良く進むことが出来たのだから。
「あまり食べると、買ったスーツが似合わなくなるぞ。」
「はぁ~・・・はい・・」
「それと、ディナーにはアルコールが出るから、お前は飲むなよ。」
「いいじゃない、ちょっとだけなら。」
「ダメだ。お前はアルコールに弱いのだし、もし飲んでぶっ倒れたら、ハンダイの息子の婚約者は酔っぱらって、みっともない女だと言われたら、このオレが困るだろう。」
さすがにそんなことは言われないだろうが、これからアルコールの出る席にオレと行く事も増えるかもしれないのだから、誘われたらホイホイと飲むような事が無いように教えておかなければならない程、厄介な同居人のハニだ。
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