あなたに逢いたくて 94
「やだ・・・・恥かしいじゃない・・・・」
「アッパ?オンマ?」
部屋の入り口で立ち尽くしていたスンジョが、クルッと廻ってハニのいる方に背中を向けたのを見て、スンハはその父の脇からすり抜けて部屋の中に入って行った。
「赤ちゃんにオッパイをあげていたの?」
ハニの胸に抱かれて、産まれたばかりの弟が乳房を口に含んで一生懸命に飲んでいた。
「ゴメン・・・・何か羽織ってくれないか?」
「うん・・・・」
ハニがカーディガンを片手で探っていると。スンハがそれに気が付いて肩に掛けた。
「アッパ、オンマのオッパイを見るのが恥ずかしいの?」
「「えっ?!」」
スンハの言葉にスンジョとハニは同時に驚いたような声を発した。
「スンハは見たことがあるよ。赤ちゃんが産まれる前は小さかったのに、赤ちゃんが産まれるとオッパイは大きくなるんだね。」
子供の言葉に大人は戸惑う事もある。
「診療所に来るおばさんのオッパイは平気で見るのに、可笑しなアッパだね。」
「それとこれは・・・・」
ハニはスンジョが、スンハに言われて答える事が出来ないのを見て、おかしくてクスクスと笑っていた。
「本当ね・・・オンマがいきなりドアが開いたから驚いただけよ。」
「ふぅ~ん、まぁ診療所に来るおばさんのオッパイはシワシワだからね。」
その言い方がまたグミと似ていて、スンジョもハニも顔を見合わせて吹き出した。
スンハは、ギミが呼んでいるのに気が付くと、弟の名前を聞きたそうにしていたが、スンジョに美味しいケーキを買って来たからおばあちゃんと食べて来るように言われて部屋を出て行った。
出て行く時に、振り向いて二人にいたずらっ子のような顔で声を掛けた。
「アッパ!オンマと二人っきりにさせてあげる代わりに、今度スンハとデートしてね。」
ハニがスンジョと巡回に一緒に行けない時に、荷物を持って付いて行くのをデートだと言って、ハニの代わりをしているつもりでいた。
これから先ずっとこんな風に親子でドキドキとするような会話をする日が続くのだろう。
「スンジョ君・・・・今日、出生届を出したのでしょ?」
「行って来たよ。名前は・・・・」
出生届を出しに行って帰るまでハニには子供の名前を教えないでいた。
届出と一緒に基本証明書を発行してもらって来たすんじょはそれをハニの前に出した。
「ペク・スンリ・・・・・・スンリ・・・・」
「気に入らないか?」
「ううん・・・・嬉しい・・スンハの時は、スンジョ君にもう会えないと思っていたから、自分が大好きだった人の子供を産んだからスンジョ君の名前から貰ったの・・・・ひとりで名前を考えて、独りで届を出して・・・凄く寂しかった。」
「そうだな、名前を付けるのは大変だったよ。スンハと兄弟だと判る名前を付けたかったから。」
スンハの時には、子供が出来たことの喜びも生まれた時の喜びも知らなかった。
それよりも、辛い妊娠初期にハニを守ってやれなかったスンハの時の償いをずっとしたかった。
胎動をハニと一緒に感じ、ハニのお腹の中で成長して行く自分の子供の誕生がこれほど幸せだと思う事が出来た事に、これから先大切にしていきたい宝物が増えた。
0コメント