あなたに逢いたくて 95(終)

ヨチヨチと歩く1歳くらいの男の子と、一生懸命にその男の子の世話を焼く7歳くらいの女の子が、古い診療所の前で誰かを待っていた。

一台の古いマイクロバスが、軋むブレーキ音とともに診療所に停まると、女の子は診療所のドアを開けて大きな声で誰かを呼んだ。

「アッパァ~、オンマァ~来たよぉ~。ソンウおじさんが来たよ。」

真っ黒に日に焼けて歯の所々抜けたソンウおじさんは、玄関に纏められていた荷物をバスの中に積み込むと、スンハとスンハの弟スンリの頭を、ゴツゴツした手でなぜていた。

「おばあちゃん、それじゃあ行くね。身体に気を付けて・・・・・・時々帰って来るから・・・・・」

苦しい時期を、何も言わないで黙って受け入れてくれたギミも、望んでいた事でもあるが、可愛い孫娘が島を離れる日がやって来ると淋しさを感じた。

「帰ってこなくてもいい。ハニが元気で過ごしていれば、それだけでおばあちゃんは嬉しいんだ。ペク先生と幸せに暮らすんだよ。ペク先生、何もできないハニだけど、迷惑をかけると思う・・・いやきっと迷惑を掛けるはずだけど、あんたに任せたから。」

口は悪いがギミの一つ一つの言葉に、後悔ばかりで過ごした七年間だったが、スンジョ自身は、諦めずにいて救われた。

父スチャンから、親子共々世話になったお礼にと、島民が使えるように診療所にテレビ電話を設置した。

これがあれば、急な病気でも半島の病院に患者の様子を伝えて支持を得ることが出来るだろうという考えだった。

診療所から離れて行くマイクロバスが見えなくなるまで、ギミは可愛い孫とひ孫を見送った。

ギミが元気に生きている間に会える日が来るかどうかは判らないが、ひ孫を二人取り上げ孫と一緒に過ごした日は、年老いたギミを元気にさせたが、島民たちも若さ溢れるハニの笑顔で気持ちが若返った。

ペク家は相変わらずグミとハニの明るい笑い声が響き、それを離れた所から見ているスンジョは新聞を読み、ハニの淹れたコーヒーを美味しそうに飲んでいた。

グミとハニの笑い声に、スンハとスンリの笑い声。

それに加えて、若い可愛らしい女の子が一人。

新婚のウンジョの妻ミアが新たにペク家の一員として加わり、ペク家は十数年間笑いのなかった家から、ハニが同居して一時は暗かった家もまた笑い声の聞こえる毎日が戻って来て幸せに満ちていた。

ペク家の嫁二人は、大きくなったお腹をかばうように、仲良く家事をこなしていた。

スンジョの左右の膝の上にそれぞれ座っている幼い子供は、父スンジョと一緒に新聞を読んでいた。

「オンマァ~あのね、新聞にこんなことが書いてあったよ。」

3歳になったスンリはようやく覚えたハングルを、一文字づつ読み上げた。

スンジョはそれを止めようとして、新聞を丸めるて後ろに隠した。

「アッパ!無駄だよ。私とスンリは一度目にしたら忘れないから。覚えようとしなくても覚えちゃうから。」

意地悪く笑うスンハは、頭も顔もスンジョに似ていた。

笑顔はハニと同じ温かい太陽のように明るく、弟スンリもスンジョ二世というくらいに記憶力と顔がそっくりだけど、スンジョが願ったように性格はハニに似ていた。

「なぁに?何が書いてあったの?」

「んっとね・・・・・」

スンジョがスンハの口を押えようとした時、膝から降りてクルッと腕からすり抜けて、キッチンにいるグミとハニとミアのそばに行き、今見た記事の内容の覚えた事を話し始めた。

「愛する妻ハニへ・・・・・自分の頑なな心を開いてくれてありがとう。素直に自分の気持ちを伝えることが苦手で泣かせてばかりだった学生時代。仕事で育児を手伝う事が出来なかった私に気遣って、可愛い子供を大切に独りで育ててくれてありがとう。自分に出来ることは、ハニが教えてくれたことよりも小さなことだけれど、これからの人生は、「自分は楽しく人は幸せに」して行こうと思う。ハニ・・・君がいなければ今の幸せもこれからの幸せも来なかったと思う。ありがとうハニ・・・・・オレの愛する妻オ・ハニへ

パラン大学附属病院小児外科 ペク・スンジョ」 

新聞社から依頼された、大切な人に贈る言葉をスンハとスンリによってハニに伝わってしまったスンジョは、未だに愛情表現が苦手で言葉にして中々自分の想いを素直に伝えることが出来なかった。

ハニは子供たちが読み上げた言葉に感動し、溢れる涙を拭うこともしないで、スンジョに駆け寄り抱きついた。

「スンジョ君・・・・ありがとう。いつでも私はスンジョ君・・・あなたに逢いたくて仕方がないの。あなたがいない時間は淋しくて辛いの・・・・・・・・スンジョ君・・大好き・・・・」

「ああ・・・・・判ってる。」

「スンジョ君しか好きになれないの・・・・・・・」

「判っているよ。オレも・・・・・オレが本当のオレで、心を安らげていられるのはハニだけだから・・・・・愛してる。」

「さぁ~みんな、おばちゃんとおじいちゃんたちの後に集まってね!おじいちゃんたちの後には、スンジョとハニちゃん、おばあちゃんの後にはウンジョとミア。スンハはスアを、スンリはスングを抱いてね。スンミにスンスクにスンギ・・・・・それから、ウジョンも笑顔よ。」

「はぁ~い、一枚目を写しますよ。」

カメラマンの声に一人以外はニッコリと笑っていた。

「真ん中の背の高い方、もっと笑顔になってくださいね。」

ハニはスンジョの顔を見上げてニッコリと笑った。

「スンジョ君、まだ写真が苦手?」

「苦手だ。」

二枚目を写すと言うカメラマンが言うと、母から離れて父に抱かれていた双子と同じ年の男の子が泣いていた。

「インスン君も入って・・・」

「でも・・・・」

「あなたもペク家の一員よ。スンハの夫でもあるし、インハは私の可愛いひ孫よ。」

ハニが同居する前の家族写真は4人だけ。

今は、ペク家のふたりの息子の妻とその間に出来た子供達合わせて、19人が集まる家族写真に変わっていた。

ハニがこのペク家に戻って来てから、毎年写す写真はその中にいる人たちみんながとても幸せな笑顔に写っていた。



゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆ ゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆ ゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆ 完゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆ ゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

0コメント

  • 1000 / 1000