最後の雨 1
ハニは今日から看護学生になって初めての授業が始まる。
医学部で勉強をしているスンジョと、将来一緒の職場で仕事がしたいと、ハニらしい考えで決めた転科。
それは表向きの事で、本心はスンジョ君が他の女性から言い寄られるのを防ぐためだと言うのと、スンジョ君の傍から離れたくない。
そんな事を口に出して言ってしまえば、スンジョになんと言われるのか判っていた。
スンジョに「医療現場は遊びじゃない」と怒鳴られると思っていたら、意外にも「頑張れ、やってみろよ」と、優しすぎる(?)お言葉をいただき、文字を見れば睡魔がすぐに訪れる体質で、眠い目をこすって転科のための試験勉強を必死にした。
百人力の鬼のスンジョ先生が付きっ切りで、山を張ったりスンジョが模擬揉んだりを作りそれを解いたりと、あのペク・スンジョがハニの為に、自分の贈れている勉強の合間に協力してくれた。
勿論ハニの事だから、起きて勉強する時間より居眠りする時間の方が多かったが、目標を持って進むハニには向かうところ敵なし状態だった。
「忘れ物はないか?」
「もう!小さな子供じゃないし!」
「そうだな、二つも年下の連中と一緒に勉強をするんだ。年上のお前が忘れ物をするわけにもいかないな。」
部屋を出て階段を下りかけた時に、ふと思い出してカバンの中を見た。
「あれ?ない・・・・・・入っていない、看護学科に出す書類が入っていない。」
「早く取って来い。全くお前は・・・・・」
階段を戻り、上がり切った所で勢いよく転んで、看護学科に登校初日のこの日は朝から大騒動だ。
部屋から書類を持って出て来たハニは、行く時に転んだ場所と同じ場所でまた転んだ。
先が思いやられる初日のハニの忘れ物と転倒に、スンジョはこの先学科とは別に始まる実子も心配だが、ハニが何事もなく無事に国会試験に合格をして看護師になれるのか心配になって来た。
「 ゴメンね、スンジョ君。」
「お前らしいよ。」
「どういう意味よ。」
「そういう意味だ。」
朝食のテーブルに並べられた食事をいつもの様に美味しそうに食べるハニと、新聞を読みながらトーストを食べるスンジョ。
新婚の夫婦というより、兄妹のようにも見える二人。
「ハニちゃん、沢山食べて行ってね。お腹が空いて倒れちゃうといけないから。」
「馬鹿オ・ハニは食べ過ぎで倒れる。」
「こら!ウンジョ!お義姉さんと言いなさい。」
相変らずスンジョのミニチュア版みたいなウンジョに、ハニはアッカンベーをした。
「小学生のウンジョにからかわれるのなら、年下の仲間にも年齢差を気にすることもないな。」
「スンジョまで・・・・・・ハニちゃんに意地悪な事を言ったり、冷たくしたりすると、ハニちゃんが若い男子学生と浮気をするわよ。」
そんな会話は毎日のことだが、これからの看護学科での学生生活に夢を見ているハニは、生意気なウンジョの言葉も、スンジョの冷たい言い方も全く気にならなかった。
「ねえ、どんな子たちがいるのかなぁ~いい子ばっかりだといいな。意地悪で冷たい子がいたら嫌だな。」
「へぇー、お前オレの事嫌だったんだ。」
「嫌じゃないよ、どうして?」
「意地悪で冷たい子がいたら嫌だと言っただろ。」
「そ・・・・それは・・・スンジョ君のことじゃないから・・・・・スンジョ君は意地悪を言う時もあるし、冷たい時もあるけど・・・・・・優しいよ・・・・・」
大学に着くまでの時間、独りで大騒ぎをしているハニの話を、黙って聞いているとあっという間に大学に着いた。
学生用の駐車スペースに車を停めてエンジンを切ると、医学部と看護学科は別の教室に行く事になる。
「一緒に行ってくれないかな・・・・・・・・・年下の子ばかりだと思うと、行きづらくって。」
寂しそうに言うハニの声にスンジョは当然のように言った。
「小学生じゃあるまいし、一人で言って来い。オレはすぐに研究室まで行かないといけないから。」
ションボリして歩いて行くハニの後姿に、スンジョは不思議とその後ろ姿が頭にしっかりと残るような気がした。
普段でも、一度見た物や聞いた事はすぐに覚えてしまうが、自分にとって必要のない物はあっさりと忘れる事が出来るが、そのハニの後姿だけが妙に気になった。
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