思わぬ同居人 111
「ほら・・・」
「あっ・・」
スンジョに肘で突かれて椅子から立ち上がると、そのハニの緊張をしている様子をユン会長は面白そうに笑って見ていた。
「今日は、会食の席を儲けてくださいましてありがとうございます。婚約者のオ・ハニです。」
「は・・初めまして・・・オ・ハニと言います。」
「緊張をしなくてもいいよ・・さあ、座りなさい。」
ユン会長は案内してきたスタッフに合図をするとすぐに、ワインとグラスが運ばれて来た。
飲むなよ
店に入る直前まで絶対に『アルコール類は飲まないように』とハニには言っておいても、ユン会長のその雰囲気に飲まざる負えない事はスンジョには判っていた。
「私は、お酒は飲めなくて・・・・」
グラスを目の前に置かれて、ワインが注がれようとするとスンジョに言われたように、ハニはグラスに手を翳して断りを入れた。
「挨拶だよ。それに少し飲めば君も緊張が緩むだろう。」
相手に断る隙を与えないユン会長の雰囲気。
ハニはグラスに注がれるワインから目が離せなかった。
「さぁ、乾杯だ!」
グラスとグラスを合わせる音も、個室ではないからその音も周囲の音で消えてしまう。
甘くて飲みやすいワインを、ハニの為に選んでくれたのだろう。
『飲みやすいからと、一気に飲むなよ』と、ワインが出た時の事も一応話しておいたが、ハニはやっぱりだな・・と思う事が当たって、一気に飲み干した。
マナーなど知らないハニのその飲み方に、しかめっ面をするスンジョだが、ユン会長はそんなハニを見てもただ笑っているだけだった。
「ハニさん・・・だったね。」
「はいっ!」
「君の魅力は会ってすぐには判らないが、火の打ち所のないスンジョ君が、会社の為にと思ってした見合いを断ってまで選んだ君はどんな女性かと思って見ていたけど、君の良さはすぐに判ったよ。」
「私なんて・・・・ヘラには何をしても勝てないし・・・・私も判らないのです。スンジョ君は私のどこがいいのだろうって。」
オレの事やオレに対する気持ちや思いを語らせたら、何時間経っても食事も食べられないし、余計な事を言う様な気がして心配でもあったが、話し始めたハニはユン会長と初めて会った数分前の事のオレとの約束はすっかりと忘れていた。
ハニのお喋りに嫌気が指すわけでもなく、それに合わせてくれている会長の懐の大きさに、ヘラとの縁談を破談にしてからのオレの押しかけの行動も判っていたのかもしれない。
「今日は楽しかったよ。ハニさんを選んだ理由が判る気がする。君は完璧だから、ヘラではなくハニさんを選んだのだと。ハニさん・・・」
「はい!」
「また一緒に食事をしてくれるかね?」
「勿論です!」
ほろ酔いを通り過ぎて、ユン会長に勧められるままワインを飲んだハニは、スンジョとの約束どころかユン会長がどういう人なのかも忘れているように見えた。
「今度は、ワシとふたりっきりで飲んでみないか?」
「だめですよぉ~、私がお酒を飲むとスンジョ君が焼きもちを妬くから。」
会長が大きな声で笑っているが、オレはハニの一言一言に怒鳴りたい気分だった。
迎えの車が来て、ユン会長が座席に落ち着くと、窓を開けてスンジョ達に挨拶をした。
ハニはどんなことがあっても、やっぱりハニだった。
「おじさぁ~ん!!今日はご馳走様でした。とぉっても、楽しかったでぇ~す。」
スンジョの顔が引きつっていたのを、ハニは全く気が付いていなかった。
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