思わぬ同居人 112
ユン会長に会食の時のハニの失礼を詫びる電話を入れると、意外な言葉が返ってきた。
「良い娘さんじゃないか。ヘラに比べて勝るとは思えないが、君が彼女を選んだ理由が判るよ。いつも張り詰めている糸は切れやすくて脆い。彼女を見ていると、人の駆け引きや数字を頭で計算している人間にはホッと一息つける存在だ。気を張るのもいいが、たまにはざっくばらんになるのが気分転換になるよ。君と彼女は、お互いに持っている物を分け合って、ちょうど釣り合いが取れているいい関係だ。彼女を選んで君はよかったのかもしれないよ。今後のワシの仕事の駆け引きに、考えを換える事が出来たよ。たまには気持ちを真っ白にして見る事にしたよ。今度は彼女を酒の席に連れて来なさい。」
「ありがとうございます。会長のご都合が付きましたらいつでも伺います。」
初めは緊張していたハニも、帰りの車の中で楽しそうな顔をしていた。
いきさつの事を考えれば会いたくないハニの気持ちも、ハニが思っているヘラとの事もオレには判るものではないが、ハニがこの先親父の仕事での絡みで関わるヘラとの事も、オレが付いているだけで安心できるような気がする。
「人って会って話してみなければ判らないね。」
子供のように純粋な心のハニだから、オレの捻くれた心を真っすぐにしてくれた。
会長が言う様に、本当にオレにピッタリの相手だと思う。
「どうかしたの?」
「何でもないよ・・・こっちに来いよ。」
「あっ・・・」
最近貼り付くようにオレの傍にいるハニは、腕を引っ張ればすぐに胸の中に入って来る。
ハニの甘い香りは、気持ちが落ち着く。
「お・・・・おばさんが来たら・・・・」
「来たら、大喜びだよ。むしろ、もっとすごい事をしている方が喜ぶかも。」
「うっ・・・・・」
暫くこうしていたい。
気持を伝えるのは難しくて、まだ口に出して言う事は出来ないけどはっきりと言いたいことはたったこれだけの事。
ハニ・・・・好きだよ
「何?」
「何でもないよ・・・何も言っていない。」
「何か言ったように聞こえたけど。」
「じゃぁ、なんて言ったんだ?」
「・・・・・言えない・・・・」
顔を赤くしてオレの胸に寄せてくるハニは、きっとオレの心の声が聞こえたのだろう。
お互いが好きになるから心の声が聞こえるのではなくて、お互いが信じあえるから心の声が聞こえるのだろう。
「スンジョ~、ハニちゃぁん、御飯よ。早く降りていらっしゃい。」
珍しくおじさんも早く仕事を終えて帰って来て、6人の食卓はこれからもずっと続くのだろう。
0コメント