思わぬ同居人 117
おじさんとは時々話をしただけで、こうして面と向かって話をしたことも無かったし、しようとしたことも無かった。
「ちょっと待ってな・・・・」
「本を読んでいたのですか?」
ギドンは恥かしそうに笑った。
「スチャンのように、人前で挨拶をしたり話したりすることが無いからね。結婚式の挨拶に何を言ったらいいのか思い浮かばなくてな。スチャンの仕事関係の人も来るだろうし、君の友達も来るだろうし・・・・そんな時に、ハニの父親であるワシが、挨拶が出来なくて恥を掻かせてはいけないからな。」
「大丈夫ですよ。普段通りの話をしていただければ。」
「そうは言っても、君も判るだろうが、ハニはあの通りそそっかしいし、式で娘は失敗をするかわからないし、父親が挨拶も出来ないじゃ、とんでもない結婚式になっていつまでも人の思い出話のネタになったらいかんからな。」
「それもそうかもしれませんね。」
「だろ?」
オレはおじさんに言えなかった。
とんでもない事をしかねないのは、ハニばかりじゃなくてオレの母親のファン・グミもいるのだからその時はその時だとは。
「ところで話ってなんだった?」
「実は・・・・」
「ハニの事で、何かあったのか?」
「おじさん・・・」
「我儘に育ったからな。君に迷惑を掛けたら、叱ってやってくれよ。結婚したら、ワシに気兼ねをしないで叱ってやって欲しい。」
ギドンは娘はいつか誰かと結婚して自分の手から離れて行くことは判ってはいたが、まだしばらくは嫁ぐことはなかったと思っていただけに、淋しい気持ちもあったが親友の息子は、男としては完璧な人間で、任せても大丈夫だと思っている。
「ハニの・・・ハニのお母さんとおばあさんのお墓に行きたいのですけど。」
「家内と義母のお墓にかね?」
「はい。結婚を許してもらった報告に行こうと思っているのです。」
「遠いよ。君も忙しいだろうし、わざわざ行かなくてもいいよ。家内も義母も気にする性質でもないし、ワシが時間がある時に報告をするから。」
「いえ、これは自分たちの口で報告をしたいと思っています。まだ学生で、結婚式からその後の新婚旅行と生活も、まだ親に頼らないといけない学生ですが、報告だけは自分たちでしたいので。」
ギドンはスンジョの気持ちを聞く事にした。
早い結婚を決めてしまったことを詫びたグミに、自分たちで妻と義母の墓に結婚の報告に行くと言う律儀なスンジョ。
ペク家の人間になるのに、何も不満も不安も無い。
「日にちもないし、明日はどうかな?日曜日だし、大学の休みだろ?判りやすい場所ではないから、一緒に行った方がいいと思うよ。帰りは、バスと電車で帰って来るから、ハニと仲直りをして来るといい。」
「すみません、お店があるのに・・・それに気を使ってくださって。」
「気にしなくていいよ。」
ハニのお母さんとおばあさんに挨拶をしないでいては、結婚指輪もドレスも選ぶ気にはなれなかった。
ちゃんとハニに説明をすれば良かったのに、ハニの方から言い出してくれるのを待っていたかった。
ハニを生んでくれたお母さんと、育ててくれたおばあさんは、今は生きていなくてもオレにとってのお義母さんでおばあさんなのだから。
オレとの結婚で有頂天になっているハニには、そんな事さえも頭になかったのだろう。
話せばわかるやつだと思っていたオレにも問題があるけど、ハニの方から自分のお母さんに会って欲しいと言って欲しかった。
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