思わぬ同居人 120
礼を尽くした言葉で挨拶をしたかった。
「気に入ってくれましたか?」
取ってつけたような言葉でいうよりもオレのいつもの口調で言った方が、たとえお墓にいるハニのお義母さんとおばあさんでも本当のオレを知ってもらえるのではないだろうかと思う。
「ハニは、わがままばかり言って、なかなか言う事を聞いてくれません。」
隣にいるハニは、まだこの間の喧嘩を引きずっている。
「嫌い・・・」
「嫌い?」
「好き・・・・」
判っているよ、ハニが言う『嫌い』と言う言葉は『好きだ』と言う言葉だと。
「でも、そんなハニがいてくれたお陰で変わる事が出来ました。おばあさんがハニに教えた言葉は自分にもとても役立ちました。そして、そんなハニを生んでくれたお義母さん・・・・・・ありがとうございます。お二人の大切なハニを、一生守って行きます。」
少し前までまだブツブツと言っていたハニは、鼻をすすって涙ぐんでいた。
ハニと場所を代わると、スンジョの背中に二人を見守っているギドンの気持ちが伝わって来る。
どんなに我儘を言っても君に娘を任せたから、家内も義母も自分と同じ気持ちで見ていてくれる・・・そう言う気持ちが伝わって来た。
「ママ、おばあちゃん・・・私、結婚するの・・・素敵な人でしょ?私、幸せになるね。」
ハニの簡単な挨拶が終わると、ギドンが目頭を押さえながらハニと入れ替わって墓前に跪いた。
手を合わせて、ずっと何かを心の中で話しているのか、後ろに立っているハニとスンジョには判らないが、ギドンの想いはその後ろ姿から送られてくる聞こえない声でも、二人の心の中に染み入った。
この男ならハニを任せる事が出来る。
自分の親友の息子だからではなく、男としてもとても信頼が出来る人間で、ハニにはもったいない程にいい男だ。
だから安心して、見ていてくれるか。
そう言っている心の声が、ハニとスンジョにも聞こえていた。
「さぁ、帰ろうか・・・まだ時間もあるし、いい天気だから二人でどこかに行きなさい。」
「でも・・・」
「おじさん、店まで送って行きます。」
「いいよ・・・若いふたりの邪魔はせんから。」
「でも・・・・」
送って行かなくてもいいと言われても、送って行かずにそのままにするわけにはいかない。
ハニと気まずい雰囲気の中、おじさんがいてくれたからこの場所まで来る事が出来た。
「それなら、近くの駅まででいいよ。たまには電車で帰ってみたいから。」
ギドンが遠慮している事は、スンジョには判っていたが、その作ってくれた時間でハニとの気まずくなった間を元に戻して行かなければ、日にちはもうそれほど残っていない。
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