思わぬ同居人 122
「感じのいいお店で良かったね。大急ぎで名前を入れて欲しいとお願いしたのに、前日には出来ますって・・・」
「それが仕事だからな。」
ドンドンと足踏みをして、スンジョの横を歩いていたハニが立ち止った。
別に怒らせるような事を言っていないスンジョは、呆れたように息を吐いて振り返った。
「どうしたんだよ。まだ行く所があるんだぞ。」
「誰かがあの時にあんな風にお店を出て行かなかったら、日にちは余裕だったのよ。何が仕事だからよ。」
確かにそうだ。
だけど、ハニもオレとの結婚が急に決まったとはいえ、お義母さんのお墓に行こうといつになっても言わないからいけないんだぞ。
お前がそんなんだと、お墓の中からお義母さんとおばあさんが出て来るぞ。
おじさんが言うには、ハニのお義母さんはハニとよく似ているらしいから、背後霊になって付いてきそうだよ。
「何か食べて行こうよ。お腹が空いちゃった。」
「まだ駄目だ、次の店に行って決まってから何か食べよう。」
昼も軽い物をおじさんが作って来てくれたから、お墓に行く途中で休憩の時に食べたままだ。
お墓からここまで休憩なしで来ているから、オレも結構疲れて来たから休んでもいいが、店に電話を掛けて予約を取っているからそれに間に合うように行かないといけない。
これも、オレが悪いことは判っている。
あの時、面倒臭くても、ハニに付き合っていれば決まっていた事だ。
「スンジョ君・・・ここ・・・」
「ドレスを決めないといけないだろう。オレもここでお前に合わせてタキシードを作るから。」
ありがとう、ありがとうと何度も言って、スンジョの腕に抱き付くハニから身体を離すことなく、店の前に立ってドアを開けた。
「いらっしゃいませ。ペク様ですね?」
「スンジョ君・・・・予約してくれたの?」
「まぁ・・・一日で片付けないといけないことがあるから、時間を無駄にしないようにしたくて。」
格好つけて言ってみても、本当はハニが喜ぶ顔を見たかっただけだ。
口数が少なくて、ハニをこれからも怒らせたり悲しませたりするかもしれない。
人に合せることも苦手で、ハニが喜ぶことや楽しませることは何なのかも判らないし、気の利いた店も言葉も知らないオレだけど、こんなオレが出来る事は・・・・ハニをからかって怒らせて自分が楽しむだけなのかもしれない。
そんな時にオレとハニが一番近くにいるように気がしている。
「う~ん、決まらない・・・・ねぇ、どっちがいい?」
「オレに聞くなよ。」
ついついこんな口調になってしまうけど、そんな口調で言った時にお前が口を尖らせてちょっと拗ねる顔がオレは好きだよ。
好きだけど、お前に声に出して言ったりは絶対にしない。
「お客様は、お肌も白くて綺麗なので、襟ぐりが広い物を選ぶと、さらに引き立ちますよ。」
「じゃぁ・・・・これを試着してもいいですか?」
フィッティングルームに入って行くハニが、振り返って手をオレに振る。
それに返すことはしないけど、お前が歩く後ろから今度はオレが見守るよ。
お前が迷子にならない様に。
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