思わぬ同居人 127
いつもはハニの淹れたコーヒーを飲んでいたが、今朝は花嫁だから準備が忙しいとお袋が淹れてくれた。
お袋の淹れたコーヒーも不味くはないが、オレにはハニのコーヒーが一番美味しく感じる。
余計な事を言えばまた厄介なことになるから黙っているのが一番いい。
バタバタと大きな荷物を持ってハニとミナとジュリが降りて来た。
ミナとジュリは既にドレスに着替え、髪もセットしメイクも終わっていた。
「おばさん、準備できました。」
「すぐに行くからリビングのソファーで座っていて。」
準備が出来たって・・・今、起きたのじゃないのか?
「食事はしないのか?」
「ミナちゃんとジュリちゃんはもう朝早くに終わったのよ。ハニちゃんは緊張して食べられないって。」
「食べられないって、馬鹿ハニはサンドイッチを一人前ペロリと平らげたよ。」
「ハニらしい・・・・」
「スンジョ君、違うの・・食べられないと言ったら、おばさんがサンドイッチなら食べられるでしょって・・・」
今日の主役のハニは化粧っ気も無く、普段着のままで髪もいつものままだ。
「お前はそのままで行くのか?」
「ジュリが、式場で綺麗にメイクをしてくれるの。ドレスを家から着て行くわけにもいかないから。」
確かにそうかもしれない。
家からハニがウエディングドレスを着て行けば、玄関を出た所で裾を踏んで転ぶだろうし、ドレスは悲惨な事になるだろう。
「ハニちゃん、行くわよ・・・パパ、ギドンさん、先に行きますね。」
お袋の張りきりは予想以上だった。
そうだろう、ハニが念願の娘になると言って数日前から興奮状態。
娘じゃなくて嫁だろう、と言ってもそんな事はお袋には関係ない。
堂々と、ハニをわが家の嫁と言えるのがいいのだろうから。
お袋と一緒にハニとミナとジュリが家を出て行くと、家の中は一瞬にして静かになった。
男はこんな時はつまらないもので、楽しい会話どころか仕事関係の人の話しをして時間を過ごすしかなかった。
ウンジョがスーツに着替え、スチャンもギドンもスーツに着替えた。
スンジョはタキシードが入っているバックを持つと、ハニから30分遅れて3人と一緒に家を出た。
秋の景色は春と比べると暗い感じがするが、今日は自分の結婚式だと思うと秋の景色も春の景色に見える。
21年間家の近所の景色を見ても、何も感じたことはなかったが、こんな風に秋の景色が春に見えると思えるのはハニと出会ったからだろう。
運転をする親父と助手席に座っているお義父さん。
親友だった二人が今日からは親戚になり、オレはおじさんの義理の息子でハニは親父の義理の娘。
好きでも無かったハニが、思いもよらずに今日からはオレの妻となる。
遠くからでも判る式場の入り口に飾られている祝いの花輪。
まだ参列する人たちの姿は見る事は出来ないが、遂にこの日が来たことを実感した。
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