思わぬ同居人 128
真新しい糊の効いたシャツに袖を通すと、緊張などしていないと思っていたのに、指先が震えてボタンを掛けるのがこんなにうまく行かない事は今までなかった。
タイを付けてジャケットを羽織った頃に、新郎控室のドアがノックされた。
「スンジョ・・・・入ってもいいかしら・・・」
グミの声だった。
「あぁ・・・・」
すっかり式が始まるのを待つだけに髪をセットしてメイクもし終えた母の嬉しそうな顔を見ると、今までハニを遠ざけるために母を遠ざけていた事に気恥しく感じた。
「うん・・・我が息子は今までで一番素敵よ。」
「オレの事なんて、見ていなかったくせに。」
「見ていたから、ハニちゃんと結婚をすることが出来るようになったのじゃないの。」
それを言われると、言い返す事が出来ない。
お袋がハニは自分に似合うと言っていた事の意味が、今のこの時になってやっと分ったような気がした。
「スンジョ、これを付けて・・・・」
グミはスンジョのジャケットの襟元に、ブートニアを付けた。
「ハニちゃんのブーケから一輪取ったのよ。」
息子の襟にブートニアを付ける母の手が震えていた。
「お袋?」
「ごめんなさい・・・今までスンジョを困らせてばかりで・・・やだわ・・緊張して目がかすむわ・・」
近くに置いてあったティッシュを一枚母に渡すと、それで目頭を押さえていた。
グミがこんな風に目を潤ませているのは初めてかもしれない。
「ハニちゃん、綺麗だったわよ。でも残念ね、花婿さんは花嫁さんに式が始まるまで会う事が出来ないから。」
「そうだな・・・お袋が羨ましいよ。ドレス姿のハニとオレよりも先に会って来たのだから。」
参列者の迎えをお願いします、とドアの外から式場スタッフが声を掛けると、あと数十分で式が始まる。
新郎控室からグミと一緒に出ると、もうスチャンとギドンが参列者と挨拶をしていた。
スチャンの横に並ぶと、会社関係者の人に息子を紹介し、スンジョにとっては苦手な笑みを浮かべての挨拶。
この時に嫌な顔をしてはいけないことくらい分っている。
ひとりひとりの参列者に挨拶をしていると、顔なじみの大学の友人やテニス部の仲間、パラン高校時代の同級生やハニのクラスだった7クラスの女子たちにお祝いの言葉を受けた。
「おめでとう。」
「ヘラ・・・・」
「今日は友人として来たわよ。」
ヘラへの申し訳ない気持ちもあったが、こうして笑顔で握手をすることが出来て良かった。
「おめでとう。」
「会長・・・・」
「さっき、花嫁さんをチラッと見せていただいたよ、明るくていい娘さんだ。花嫁さんの笑顔を見たら、君が彼女を選んだ理由が判った気がするよ。」
「ありがとうございます。」
「約束があるから中座するけど、とにかくおめでとう。」
ユン会長はやはりオレには叶わない人だ。
こんな懐の大きな人間になるには、いくつもの困難を乗り越えて来たのだろう。
0コメント