最後の雨 3
転科した学生を気遣って声を掛けて来たのだろう。
用事が無かったら、一緒にどこかでお茶しようと言われたが、その誘いは嬉しかったけどハニは断った。
転科した初日に気を利かせて誘ってくれたことは判っているが、普段とは違った緊張をした所為か、早く家に帰りたかった。
友達になったヘウン達に挨拶をして、ハニは荷物を急いでまとめて講義室を出た。
初日の事を話したくて、スンジョと一緒に帰りたかったが、何かがあるから忙しくなりそうで一緒に帰れないと言われていた。
「ちょっとだけ・・・・・スンジョ君を見てから帰ろうかな?」
看護学科の講義室から医学部の講義室の棟は隣り合わせ。
ハニの特技はスンジョの時間割を知る事。
これは高校生の時の片想いの時期からずっと続いている。
いつどこで講義があって、この日はどこの研究室にいるのかすべて頭に記憶されている。
よくスンジョに言われていた。
「その動力を勉強に使え。」
そんなの無理よ。
私はスンジョ君のことを覚えることに一生懸命で、なりたい職業について考えたことはなかった。
スンジョ君は、看護学科に転科する試験勉強を教えてくれても、決して甘やかしたりしない。
人に頼ればその方が楽だし簡単だ。
だけどハニがオレに教えてくれた事の、努力するということが一番重要だ。
「判りました、頑張ります!」
思わず声に出してしまい、講義室でテキストを広げていた医学生たちにハニは睨まれた。
ペロッと舌を出して、ハニはペコリと頭を下げて謝り、スンジョのいると思われる研究室を探して部屋の中を覗いた。
頭をくっつけるようにしてパソコン画面を見ている医学生の集団の中にいるスンジョの姿を見つけた。
「カッコいいな・・・スンジョ君・・・・・・ん?」
スンジョが動くと、パソコンを操作している一人の人物にハニは気になった。
「長い髪?女?ううん・・・・ミンジュみたいに、本当はただ髪の毛が長い男だったり・・・・・・・」
パソコンを操作していた長い髪の人物が立ち上がると、白衣を着ていてもはっきりとわかるくらいに大きな膨らみ。
「女?」
その女子学生は、立ち上がるとふらついて意識をするようにスンジョに抱き付く感じになった。
「スンジョ君・・・・・離れて・・・・・」
胸元を意識してその女子学生は手で押さえた。
声は聞こえなくてもはっきりとわかる口の動き。
<大丈夫か?>
<ええ・・・寝不足で・・・・・・・>
「なぁーにが寝不足よ。私のスンジョ君に抱き付くなんて!スンジョ君は巨乳は好きじゃないんだから。私みたいに小さめな胸が好きなのよ!」
スンジョのことになると周りが見えないハニは、自分の後ろに立っている人物に気が付かなかった。
「あの・・・・・・・」
「なによっ!私のスンジョ君が他の女の毒牙に掛る一大事なのに!」
その声が研究室の中に聞こえたのか、スンジョが振り向いてこちらに向かって歩いて来た。
「何やってんだよ。一緒に帰れないと言っただろう。すまん・・・・通り道を塞いで・・・・・・」
「スンジョの奥さん?」
スンジョの奥さん?・・・・・スンジョ君ったら・・・・私の事・・・・・
「ああ・・すぐに追い返すから、先に進めてくれ。こっちに来いよハニ。」
腕をグッと掴んで、スンジョは非常階段の方にハニを引っ張って行った。
何も言わないスンジョにハニは恐る恐る話しかけた。
何も言葉を発しない時のスンジョは、怒っている事が多い事は、高校時代から一緒に暮らしているから知っている。
「怒ったの?」
「怒っていないけど、ハニが来ると集中が出来なくなるんだよ。」
「やっぱり怒っている・・・・・・」
「怒っていないって言っているだろう!」
ハニはビクンとして目に涙を浮かべた。
「ゴメン・・・ちょっときつい言い方をした。今日は時間もかかって遅くなるから先に眠っていてくれよ。」
ポロンと涙を流したハニを見て、スンジョは辺りを見回してそっとハニにキスをした。
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